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カイガ
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#魔道具職人
こはる
135
紅実の質問に、シュートは彼女にゆっくり顔を向ける。異世界による急成長で大人びて綺麗に整った顔となったシュートに間近で見つめられて、紅実は自分の顔が熱くなるのを感じる。もっとも、仮に今の顔が急成長前のシュートだったとしても、紅実は同じような反応をしていたことだろう。
「俺が、最近何をして過ごしてた……か。まぁ簡潔に答えると、日夜テレビゲーム漬けの毎日だよ。といってもそれは新生活に向けての英気の養いのつもりだけどな」
「そ、そうなのか……。気持ちを整理したり何か準備したりするのに必要なことなんだと思うけど……ゲーム画面を見過ぎていると目に毒だから、程々にした方が良いと思うぞ」
「はっ?何目線での忠告だよ」
鼻で笑うシュート。そこから沈黙が一瞬訪れたのち、紅実が再び話を始める。
「そういえば、シュート君は私の叔母さんに会ったそうだな」
「ああ、あの女刑事……お前の身内なんだっけな。取調べ室では驚かされたよ」
「知っての通り、叔母さん…菫さんは刑事さんだ。最近この地域の警察署に赴任したのも最近知ったんだ。
それで……少し前に、菫さんと話をして、あの人がシュート君の取り調べを担当したことや、君が……どういうことを喋ったのかを少し、聞かせてもらった」
「ふーん」
シュートの脳裏に、取り調べの菫とのやり取りが浮かぶ。
(あいつらに刻まれた痛みや屈辱をそっくりそのまま返さないなんて、それは俺の正義に反することだったから。復讐を我慢する自分が、誰よりも許せなかったんです)
(俺が不幸にならない、損をしない、害されない、得をする、幸せになれること。
そしてそれらを一つでも侵そうとする敵…自分がクズだと思う人間を排除するということ。それが俺が考える正義です)
(自分の人生…何もかもを犠牲にしてでもかい?)
(それを犠牲にして自分が救われるのなら、喜んでそうしてやる)
あの日自分の口から出たあれこれが、シュートは今でも正しいと思っている。発言を撤回する気は微塵も無い。
「中里君たちへの復讐……あんなむご過ぎる仕返しを平気でやるのが、シュート君の正義だったのか?」
「そうだけど?何が聞きたいわけ?」
「………以前のシュート君の正義は、私と同じような想いを持っていたよね……」
「“弱く困っている人を助ける”とか何とかだっけ?俺も色々あり過ぎたせいで、そんな正義はもうクソ喰らえって思ってんだ。お前はまぁ、そういうのが正義だって思ってりゃ良いんじゃね?
正義なんて人それぞれなんだから。最近俺はそのことに気付かされた」
「正義は、人それぞれ………」
紅実はシュートの言葉を反芻して真剣に受け止めて、深刻な表情を浮かべる。
「俺を虐めた元クラスメイトどもとあのクソ中学校そのものへの復讐な、あれについては反省も後悔も一ミリたりともしてねーから」
シュートの言葉に紅実は顔を上げて彼をみつめる。
「無関係決め込んでた元クラスメイトども学校のクソ教員ども。お前やああいう事情を知らない連中からしたら、おれがしてきたことは間違ってることだって思うんだろうけど、俺にとってあの復讐は唯一で絶対の正義だった。間違ってなんていなかった。俺は正しいことをしたんだ。自分を救う為として、最善を尽くしたんだ……!」
「シュート君………」
感情を露にして思いを述べるシュートに、紅実は圧倒されていた。彼女は何も言えなかった。自分にシュートを救うことなど全く出来なかった。他の誰でも彼を助けられなかった。だからシュートは自分で自分を救った。手段を問わず、自分が考える得る限り最高に発散出来るやり方で。
何も出来なかった紅実に、シュートを非難する資格などあるはずが無い。
「君は間違ってる、とか言わねーんだな?」
「私にそんなことを言う資格が無いくらい、分かっているつもりだ………」
「あ、そう」
そこからしばらく沈黙が続く。もう帰ってくれないかなぁ、とシュートがそう思ったところに、紅実が改まった態度でシュートをじっと見つめる。
「今日シュート君の家を訪ねたのは、忠告と謝罪がしたいからって言った。だから今度は謝罪をさせてほしい」
そう言って紅実は立ち上がって、シュートに向かって頭を深く下げる。
「虐めを止めに行かなかったこと……助けに行かなかったこと…何もしてあげられなかったこと。
本当に、ごめんなさい…!」
「私が中里君たちを止められなかったのは、お父さんが解雇されるのが怖かったから。彼の告げ口一つで、お父さんが簡単に辞めさせられるって脅されてたから…。
だから私は、中里君に屈してしまった……。私が弱いせいで、シュート君が理不尽に傷つけられてるのを見てるしか出来なかった。
ごめんなさい……っ」
「……………」
紅実の心からの謝罪に、シュートは溜息一つこぼすだけで何も言わなかった。そこからまた沈黙が続いたのち、紅実はこんな話を持ちかける。
「シュート君……天成中学校に戻ってくる気はないか?」
「………何だと?」
じろりと睨むシュートに紅実は怯みかけるが、どうにか続きを話す。
「先日の暴動の件もあるけど、SHOTが生配信で告げたことを視聴した教育委員会が校長…硲先生たちを審査にかけた。たぶん、あの二人は学校から姿を消すことになる。
それが関係しているのかは分からないけど、君が復学出来るかもしれないんだ!そうならなければおかしいと思うから」
「……………」
紅実の推測は的を射ており、実際シュートには天成中学校への復学の線が濃厚となっている。教育委員会の査定で出ていることは、硲が理不尽にシュートを退学処分にしたことと彼の虐めを容認していたことくらいであり、シュートが校内で暴力を振るっていたことは記録に残っていない。
故に教育委員会側はシュートが一方的な被害者であると判断し、彼の退学処分を取り消す方針を取ろうとしている。
「だから……学校に戻る気はないだろうか?いや、戻ってきてほしい。私はシュート君と―――」
そこまで口にしたところで、シュートは苛立たしげにテーブルをドンと叩いて黙らせる。紅実は短く息を吐いて、彼の顔を恐る恐る見る。
「何を寝ぼけたことを……。それとも俺をブチ切れさせたいの?だったらその目論見は成功だな」
スキル「威嚇」が発動されて、紅実に重度のプレッシャーをかける。彼女の首筋に冷や汗が流れだす。
「う…ぁ………」
「あんな、反吐が出るくらいに腐った糞クラスに…骨の髄まで腐り切った大人たちがいる糞中学校に戻ってきてくれだと?お前がそこまで馬鹿だとは思わなかったなぁ。お前とだってもう顔を合わせたくないってのに、何勝手なこと言ってんの?
脅されてたとはいえ虐めを放置してたお前が、よくそんな話を持ちかけてきたな?」
「………ごめん、なさい…」
「お前の安い謝罪が通るとでも思ってんのか、不愉快だ」
紅実はまたテーブルから立ち上がって、シュートの前に膝をついて誠意を表そうとする。
「シュート君を虐めた中里君や後原君、彼らとつるんでいた他クラスの男子たち。君を嘘の告白で騙して濡れ衣まで着せた板倉さん。虐めを無かったことにしようとした青野先生、校長先生方…。
シュート君はあの日、彼らに仕返しを…復讐をした。他にも、虐めを見て見ぬふりをしたクラスメイトの何人かにも復讐をした。
―――私にも、復讐したいとは思っていないか?」
「はぁ?」
「クラスメイトたちに復讐した日…シュート君は私に対して恨みはもう無い、ムカついてもいない……と言っていたけれど、それは本当なんだろうか?本当は今でも、虐めを見過ごしてきた私が憎いと思っているのではないか……?」
「………だったらどうするっていうんだよ?」
「罰なら、いくらでも受けるつもりだ。君に何をされても、私に被害者面する資格は…ない。
シュート君の気が済むまで、私を嬲っても構わない……!」
そう宣言する紅実の体はかたかたと小さく震えている。中里や板倉に振るった暴力が自分にも降りかかるのかと思うと怖いと思わずにはいられなかった。しかし紅実は覚悟を決めようとしていた。何もしなかったことのけじめをつける為に……。
「あっそ。じゃあ、早速やろうか――」
直後、シュートは紅実に迫り、彼女の腕を取ってリビングのソファへ押し倒す。
「………!?」
「何されても文句は言わない、抵抗もしない。そう誓うか?」
「………ああ(こくり)」
シュートの問いに紅実は肯定を示す。武道に精通している紅実なら、このような事態への対処も完璧にこなせる。本来であれば技をかけて暴漢を返り討ちするところだが、この日の紅実は完全にシュートのなすがままになっていた。仮に抵抗しようとしても、今のシュートの腕力には到底敵うことなく、蹂躙されることに変わりないのだが。
確認と言わんばかりに、シュートは紅実の右胸をがっと掴む。中学生ながらも女であることが分かる柔らかい感触が、シュートの腕に伝わっていく。
「………っ!このことは、誰にも言わない…。後で通報したりもしない。シュート君の、好きに、していい……」
「……言質は取ったからな」
紅実は目に涙を溜めつつ赤面した顔で、震えた声でそう言った。録音中の携帯電話を見せながら、シュートは紅実を犯す準備をはじめる。
紅実の右胸に手を乗せたまま、もう片方の手でスカートを脱がそうとする。ホックが外されてピンクっぽい白色のパンツが外気に晒されると、紅実は目を潤ませて頬を紅潮させ、息も乱しはじめる。
「……っ。はぁー、はぁー……っ」
「………お前」
上の制服も脱がそうとしたところで、シュートは気付く。紅実の表情と態度に。
「シュート、君……!」
彼女が、情欲に滾った表情を浮かべて期待の眼差しをシュートに向けていることに。
――――
―――――
「あ、え………?」
無言のままシュートが立ち上がって解放されたことに、紅実は戸惑いの目を彼に向ける。一方のシュートは完全に冷めた態度で、溜め息をつく。
「お前さ、全然嫌がってねーだろ?」
「~~っ!そんな、ことは……!」
「あるね。これから犯されるってのに、嫌悪感とか拒否したいって気持ちが全くか感じられなかった。それどころか、なんか期待してるって感じだった。こうなることを望んでたっていうか。
これじゃあ復讐とはいえねーよ。そいつが心から嫌がることをやってこそ復讐・仕返しだっていうのに。つまらない、下らない。もう冷めたわ、はぁ」
紅実は呆然と、しかしながら頬を染めて潤んだ目をシュートに向けたまま、そして残念そうに床に座り込んでいる。
「もう帰れ。出て行け。お前と顔合わせるのも、今日で最後が良い。
俺にもう関わろうとするな」
ぴしゃりと発した冷たい言葉に、紅実は着崩れた服を整えて、とぼとぼと玄関へ歩いていく。
このまま無言で立ち去るかと思いきや、最後にシュートの方を振り向いてこう告げる。
「久しぶりに話しが出来て、本当にうれしかった。家に入れてくれてありがとう。
それと……また、様子を見に来させてほしい。シュート君のこと、放っておけないから。」
それだけ言って紅実はドアを開けて、シュート宅から立ち去って行った。
……。
………。
「いや、もう二度と来るなって」
自分以外誰もいなくなった玄関ドアに向かって、シュートはぽつりとそう愚痴るのだった。
数日後、今日も転校先の学校へ行くことなく昼間から部屋でゲームをしているシュートの携帯電話からコールがかかる。
発信者はシュートの母の羽佳理である。彼女から電話をかける用件は食材の調達を頼むことがほとんどであり、今日もそのことかと思ったシュートがてきとーに返事しようとするが……
「今日の夜、必ず自宅にいること。話があるから。とても大事な話をするからね」
夜自分たちが帰宅するまで自宅で待機せよ、とだけ告げて通話を切られて終わった。シュートはただただ戸惑うだけだった。
―――
――――
―――――
そして夜時間になり、両親ともに帰宅して、羽佳理が作った夕飯を済ませた後、家族会議が急遽開かれる。
「俺と羽佳理、そろって解雇処分が下された。中里会長直々による、リストラ宣告だ」
開口一番、シュートの父・彰司はそう告げるのだった。
コメント
1件
うわぁ…この回、すごく重かったですね。紅実がちゃんと謝罪して、自分から復讐を受け入れようとしたところ、胸が痛くなりました。でもシュートが途中でやめたのは、彼なりの線引きがあるんだなって感じました。「相手が心から嫌がることをやってこそ復讐」って言葉に、彼の歪んだ正義感が表れててゾッとしました…。最後の両親の解雇報告も衝撃的でしたね。次が気になりすぎます🤍