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翌朝陽菜が目を覚ますと、フーちゃんはもう起きていて、窓の傍に両膝を抱え込んだ格好で座り込み、何が面白いのか、窓ガラス越しにじっと空を見つめていた。陽菜はベッドから起き上がり寝ぼけまなこで声をかける。
「ふにゃあ、フーちゃん、早いね」
「おはよ! 陽菜ちゃん」
「あ、おはよ。何をそんなに見てんの? 何か珍しい物でもある?」
「ううん。空を見てただけ。こんなに広い空を見たのは生まれて初めてだから」
「は? 空の広さなんて時代で変わんないと思うけど?」
「あたしはFDの収容所から外へ出た事がなかったから。高い塀に囲まれた、切り取られた様な空しか見た事がなかった」
空がそんなに珍しい……大変な人生を送って来たんだな、と陽菜は改めて思った。それから二人がリビングへ降りて行くと明雄が既にコーヒーを沸かしていた。三人でトーストとコーヒーで朝食を済ます。
その間三人は何か話そうとしながらも、言葉に詰まって終始無言のままだった。昨夜から信じられない事の連続で陽菜も明雄もまだ頭が混乱していた。食事が終わったタイミングを見計らったかのように玄関のチャイムが鳴った。玄野である事をレンズ越しに確認した陽菜はドアを開け、そして呆れて言った。
「ゲンノ、何だよ、その馬鹿でかいリュックは? 富士山にでも登る気か?」
玄野は心外そうに反論した。
「富士登山よりよっぽど大変かもしれないじゃないか。時間旅行なんだぞ。それに明雄さんに言われて持ってきた物だって入ってるんだからな」
リビングに入ると玄野はフーちゃんに「あ、あの、おはよう」と声をかけ、妙に落ち着きのないソワソワした感じになった。その玄野の様子を見た陽菜はそっと顔をそむけて、にやりと笑った。明雄が玄野に尋ねる。
「玄野君。頼んでいた物は用意できたかい?」
「あ、はい」
そう言って玄野はリュックを開き中からまず10センチ四方ぐらいの鏡のような物からコードが伸びている妙な機械を取り出した。明雄はそれを手にとって点検し、指でOKのサインを作った。
次に玄野は金色の小さな棒が数本入った小さなビニール袋を取り出し明雄に手渡す。明雄はそれも一目見て大きくうなずいた。陽菜は横から首を突き出し明雄に尋ねた。
「兄さん、それ何よ?」
「こっちは太陽光発電式の僕のタブレットコンピューターの充電器だ。日本の歴史のたいていの事はそれで分かるからな。こっちは見ての通り、金の板だ。過去の世界に行くとなれば現代のお金は使えない可能性が高いからな。まあ、二万円分程度の金だけど、昔になればなるほど値打ちがあったはずだ」
「はあ、さすが兄さん。あたし、そんな事全然考えもしなかった。で、玄野、後は何が入ってんのよ?」
玄野はリュックの口を大きく広げて陽菜に見せた。
「まずは食料だな。乾パン、ミネラルウォーター、あと缶詰」
「で、缶切りは忘れたとかベタな事は言わないよな」
「え? あ、あはは……わりい、ある?」
「ああ、いいよ。うちのを持ってきてやる」
「それと防災用の毛布、この銀色の薄いやつ。ま、こんなとこ」
「ううん、いいけど。フーちゃん、こんなに乗る、あのタイムマシンに?」
フーちゃんはリュックを一瞥して即答した。
「うん、大丈夫。あれは四人乗りだし、座席の後ろにそれぐらいのスペースはあるよ」
「よし、じゃあ、いざ時間旅行に出発!」
陽菜の掛け声で四人は一旦近くの空き地に行き、周りに人がいないのを確かめた。休日の朝なので人影はない。フーちゃんが手首のブレスレットみたいな装置で例のタイムマシンを呼び出す。
銀白色の巨大な細長いロケットのようなその機体は、何の前触れもなく彼らの頭上に現れた。数秒陽炎のようにゆらゆらとぼやけた姿で空中数メートルの場所に現れ、それから次第に姿をはっきりさせながら音もなく地面に着地する。
一度は見ている陽菜も玄野も明雄も、改めてその不思議な光景に度肝を抜かれた。フーちゃんがまた手首の装置を操作すると、胴体の横が一部外側に向けて開きちょうど飛行機のタラップのようになる。
フーちゃんに続いてその階段を上って中に入ると、座席が二つずつ二列になって並んでいた。窓はなく完全に密閉された空間になっていて、まるで宇宙船のコクピットに乗っているような気分だ。
前の右側の席が操縦席らしく、フーちゃんがそこに座る。前列の席の正面には大きな液晶テレビの画面の様な物があった。どうやら外の景色などはこれで見るらしい。
操縦席の前にはいろいろ複雑な機械が並んでいる。フーちゃんは手慣れた様子で、タッチパネルをいくつも素早く操作した。正面のパネルがふいに明るくなり、周りの空き地の様子が映し出された。
「じゃあ、行くわよ」
そのフーちゃんの言葉と共に、パネルに映っている景色が急激に下に下がった。いや、彼らが乗っているこのタイムマシンが上昇を始めたのだ。