テラーノベル
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そしてパネルに映っている景色が不意に消失した。暗闇の中に、幾筋もの光が絶え間なく走る不思議な光景がパネルに現れた。フーちゃんが計器のタッチパネルを両手で操作しながら誰にともなく言った。
「亜空間に入ったわ。まあ、他の時間に移動する通路みたいな物ね」
そして光の筋が次々に陽菜たちから見て後ろの方向へ移動し始める。このタイムマシンが動き出したという事らしい。次の瞬間、陽菜たちが乗っている操縦席全体に激しい衝撃が走った。何かがぶつかったような感じだった。
「あ!」
フーちゃんが正面の大きなパネルを見て驚愕の声を上げた。陽菜もつられて窓の代わりのそのパネルを見る。そこには、フーちゃんの物と全く同じ形の物体がすぐ横にぴったりくっつくように飛んでいた。
正面のパネルの映し出す位置が横の景色に切り替えられた。細長いロケットのような形で、後部には9本の細長い板のような物がまっすぐ真後ろに向けて円形に並んで突き出している。明らかにフーちゃんの物と同じタイムマシンだ。色だけが向こうは金属的な光沢のある青、メタリックブルーというのだろうか、そこだけが違っていた。
そのもう一台のタイムマシンの横腹がぐっとこちらに近づいて来た。次の瞬間、陽菜たちが乗っている操縦席全体が激しく揺さぶられた。さっきからの衝撃は、このタイムマシンが横から体当たりをかけてきていたせいだったのだ。
「フーちゃん! あれは何よ?」
また襲ってきた振動の直後、後部座席に座っている陽菜は前の座席の背に両手でしがみつきながら叫んだ。フーちゃんが顔面蒼白になって答える。
「あたしを捕まえに来た追手だわ! あの収容所へ連れ戻すために!」
フーちゃんはさらに素早く、そして若干乱暴に操縦計器を動かした。そして正面の大型パネルに映る光景がまばゆい光だけになった。今までとは比べ物にならない、操縦席全体が渦巻き状に振り回されるような感覚が4人を襲い、そして陽菜は意識を失った。
気を失っていたのはわずかな時間だったと思う。どうやらさっきの衝撃で天井に頭をぶつけたようで、陽菜は頭のてっぺんにずきずきと鈍い痛みを感じながら体を起こした。手で触ってみたが、どうやら怪我はしていない。たんこぶが出来るほどでもなかったようだ。
隣の席の玄野、前の座席の明雄とフーちゃんもそれぞれに頭や顔をなでながら意識を取り戻したところだった。正面の大型パネルには外の景色が映っていた。どうやら出発した頃と同じ初夏の季節らしく、一面に青々とした葉を茂らせた木々が見えていた。
フーちゃんが機体をゆっくり旋回させると、遠くに古めかしい建物が密集している場所が見え、ここはそこからやや離れた場所の里山といった感じだ。一体いつの時代のどこの場所へ来てしまったのだろう? フーちゃんが操縦席のタッチパネルをいくつかいじる。そこに表示された数字と地図を見て、フーちゃんは愕然とした表情を顔に浮かべた。
「なんてこと! とんでもないはずれた時空に出ちゃったのね」
その言葉に他の三人もその表示を覗き込む。そこには「1130」という数字があった。陽菜はおそるおそるフーちゃんに訊いた。
「あの、フーちゃん。まさか、その数字って?」
フーちゃんもどこかにぶつけたのか、頭の右のあたりをさすりながら答えた。
「そう、西暦よ、これ。1960年ごろに行くつもりだったのに、あの追手のタイムマシンから逃げるためにとっさに時間航行に入ったものだから、とんでもない過去に流されちゃったんだわ」
「で、ここはどこなの?見たところ日本には違いないみたいに見えるけど」
「空間座標も狂っちゃったみたいね。ここ、京都のすぐ傍よ」
「きょうと? 京都府京都市ってこと?」
「正確には平安京というべきだな」
脇から明雄が口をはさんだ。
「1130年ならまだ平安時代だ。まだ都の朝廷が日本を支配していた頃だな」
「あ! なんてこと!」
計器を見回していたフーちゃんが叫んだ。
「エンジンがオーバーヒートしちゃってる。また動かせるようになるまで、何日かかかるわ、これじゃ。ううん、逃げる時に無茶な時間航行のやり方だったから」
平安時代の京都に着いてしまったのは想定外だったが、タイムマシンがしばらく動かせないのなら、いつまでも狭い操縦席に閉じこもっているわけにもいかない。とりあえずマシンを降りて都へ行ってみようという事になった。それにこの時代に「セッショウセキ」という物質の手掛かりがあるかもしれない。
幸いタイムマシンの空中静止と空間ステルス機能は無事だった。全員外に出て玄野と明雄がリュックをひとつずつ背負い、タイムマシンを十メートル上空で静止させ姿を消させる。
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