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翌朝出勤するとデスクに紙が挟んであった。
「今夜も待っています」
貴洋や父洋の字ではない。とするとY本か。
今夜も待っていますーーまさかハッテン場だろうか。Y本がホモという噂は大学時代に聞いたことがある。とあるサークルの上級生にスカウトされ、彼らの性処理をしていたらしい。
とすると、昨日僕がセックスした相手はY本だったのだろうか。中肉中背で聞いたことのあるような声、思い起こせば昨日僕の抱いた男とY本の特徴は一致するように思う。
Y本は同僚としては好きだが恋愛や性的対象として意識したことがなかった。しかし遅漏すぎる僕がセックスでイけたこと、行為後に思わず抱きついてしまったことを思えば、Y本との体の相性は良かったようだ。たしかに彼のフェラと程よく締まったアナルは格別に僕の性欲を満たしてくれるものであったし、どこか安心感のある温もりを感じた。
僕はY本を呼び出し紙を見せた。デブ親子はまだ来ていないようだがいつものことだ。
「今夜もってまさか…?」
そう聞くとY本は少しうつむいた。
「…そうっす。オレ、Y岡さんのことずっと好きだったんすよ。大学時代にあなたを見た時から気になっていました。だから今になってチャンスだと思って近づいたんです。あなたのことが忘れられなくて一緒に仕事がしたくてここに来たんすよ」
突然の告白めいた話に驚いた。Y本の俯いた視線の先、応接室前にコーンがあった。見なかったことにする。
「今じゃオレだけのY岡さんになって欲しくて…Y岡さんがハッテン場に通っているのを知って昨日は後をつけたんすよ。ストーカーみたいなことをして挙句セックスまで誘って、その、ごめんなさい」
「いや、いいんだ。でもなんで僕なんかのことを?」
Y本が僕のことを好いてくれているのがわかったが突然の告白に僕は混乱した。体の相性は良いのだろうが彼のことはわからない。そう考えると貴洋のことは性的な対象として見ていてもどこが好きなのかわからなくなってきていた。
「うーん、なんすかね。オレは男が好きで今までなすがままに生きてきました。でも、気になっていて近づいたY岡さんと同じ事務所で仕事をするうちに、この人とずっと一緒にいたい、この人の物になりたいって思ったんすよね。Y岡さんがからさんのことを気にしてるのはなんとなくわかってたんすけど、Y岡さんを諦めるどころか日増しにこじらせていくばかりで…こう思ったのはY岡さんが初めてっすよ」
僕は男と恋愛がしたいのではなくセックスがしたいだけなのだろうか。
たしかに男同士では男女のように結婚制度や子育てのような節目や縛りがないから同性同士の関係は不毛に思う。
僕は新宿二丁目のような場所や、汚らしいホモばかりが集まって群れる変なホモ文化が嫌いだ。こんなクソみたいなホモと一緒くたにされるのは御免だ。僕は僕の好みと信条に従う。僕はこいつらとは違う。
ホモであることを隠し社会的体裁を守るために偽装結婚するホモもいるほどだ。重度のロリコンでファザコンのTKと結ばれることが叶わないなら僕はそのようにして生きようと思っていた。
ところが今目の前にいる男はどうだろうか。僕のことを真剣に好いてくれているようだ。言葉より表情と口調でわかる。
「せっかくだからあんな所よりは今晩ホテルにでも行って話そうか。僕は少し考えたい。それに…」
「…それに?」
「…いや、なんでもない。それと、話してくれてありがとう」
Y本はニッコリ満面の笑みを見せると自分のデスクに戻っていった。なんだかいたたまれぬ気持ちになった。