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今日の案件と午後の講演会の内容を整理しつつY本に言われた言葉を反芻する。今の僕はかなり複雑な気持ちになっている。
僕は貴洋を意識するあまり、情けないことに僕の嫌いな性欲発散ばかりを考える薄汚いホモになっていたことに気付かされた。
人を人として好きになることが僕の人生にあっただろうか。ホモとして、人としてというより、男との肉体関係を貪るだけの性欲の塊と罵られても仕方ない状態にいる。
Y本の気持ちを伝えられあの笑顔を見せられ、罪悪感というより自身の汚れた素行の悪さを見せつけられ戸惑っている。それだけY本の真剣なアプローチに胸を打たれたどころか殴打された思いだ。
…ダメだ、仕事が手につかない。僕自身の汚さに苛立つ。外でタバコを吸おうと立ち上がるとデブ親子がノコノコと出勤してきた。
チッと舌打ちをする。洋さんはそもそも有能会計士として事務所を構えていたのだからともかく、貴洋はというと僕がサジェスト汚染に加担してきた通りの無能である。
貴洋の無能さを思い起こしていた途端にどうでもよくなってきたが、まともな仕事の大半は洋さんのコネで得ているほどだ。事務所間借りとコネにあやかっているうちは息子の貴洋を無碍にはできない。
「Y岡くん、Y本くん、朝早くからご苦労ナリ。当職の代わりに今日も裁判所に行って開示請求を頼むナリ」
上からご苦労と言われて今日は無性に腹が立ってしまった。聞き流せていたことが聞き流せなくなっている。
「…からさん、そろそろ自分で行かれては?僕は僕で案件を複数抱えているんです。からさんの分までやる余裕なんて本来はないんですよ」
「!?当職は裁判所に行きたくないナリィィ、きっと誰かが見ていて当職が外に出るのを監視しているナリィィ…殺されるナリィィ…Y本くんでもいいから頼みたいナリィィィィ…」
また貴洋が青ざめて怯えてしまった。予想外であったろう僕の発言に洋さんも動揺しているようだ。
「はぁ…からさん、すみません。でもそろそろ精神科に行かれては?今日は僕が行きますが、交通費をご自分で出されて自分の足で裁判所へ行くのも洋さんからの自立への一歩になりますよ」
貴洋がこうなった悪事の片棒を僕は担いでいるのだから少なからず罪悪感を感じている。それに、洋さんの息子を心配げに見つめる母親のような眼差しを見ると、息子をコケにするのは高齢の洋さんの心臓にも良くないだろう。
息子の給与は洋さんの財布からそのまま別会計だしお世話代も僕らには出ている。ネットを与えればロリドル鑑賞とSNSで大はしゃぎ、言語能力すら怪しいこのデブは一人では何もできない。
「洋さん、朝から取り乱してすみません。ちょっと休憩してきます。からさんをお願いしますね」
オラ森に越してから久しく食べていなかったSOWAのアイスが食べたくなり、足を運ぶ。外の椅子に座ってアイスを食べながらタバコを吸い、アスファルトに痰を吐く。
一思案する。貴洋のことはともかく、Y本の突然の真剣な告白に僕は動揺してしまっている。
何故あの時断らずホテルで話そうと言ったのだろう。Y本の僕への真剣な思い、そしてあの笑顔には正直惹かれるものがあった。
Y本のことを知りたい、五感で感じたい。そんな思いが僕の中に芽生えてきていた。
からさんの好きだったこの味、事務所のみんなにも買って帰ることにした。