コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「琉叶、凛ちゃんのこと送ってってやりなさい〜」
「当たり前でしょ」
そんな短な会話を交わし、
僕と畑葉さんは家に背を向け、歩き出した。
そういえばあの時、
桃色の線香花火が気になりすぎて畑葉さんの願い事、聞いてなかったな…
そう後悔していると
「古佐くんはどんな願いしたの?」
と聞かれる。
多分、
このまま話を進めていったら、
いつものように自分の意見も言うはず。
イコール畑葉さんの願い事が分かる!!
そう心の中でガッツポーズを決める。
「私はね〜フルーツ飴食べたい!!」
「っていう願い!!」
予想通りに畑葉さんは自身の願い事『フルーツ飴を食べたい』と言う。
フルーツ飴?
ってお祭りとかでよく見るりんご飴系のやつかな…
ていうか僕、願い事してないんだけどな…
「古佐くんは何願ったの?」
期待に満ちた目で再度同じ質問を聞かれる。
「それが願ってないんだよね…」
「今が1番幸せだし?」
「特に願いは無いかな〜…って」
付け足すようにそう答える。
と
「ふ〜ん…」
「なんか古佐くんらしいね」
と言われる。
気づけばもう桜の木が見えてくる頃だった。
それでもわざわざ桜の木の下まで送る。
少しだけでも一緒に居る時間を増やしたかったから。
「送ってくれてありがと!」
「じゃ、また明日〜!!」
「うん、またね」
大きく手を振る畑葉さんに小さく振り返す。
1人になった途端になんだか虚しくなる。
というか寂しいのだろうか。
しかもさっきまで一瞬だった道がとても長く感じる。
漫画でよく見る『好きな人との時間はすぐ過ぎ去ってしまう』というのは本当だということは分かる。
そんなことを考えながら家へと向かう。
次の日になり、また学校へ。
ニュースで今週はどうやら暑くなるらしい。
多分嬉しがってるのは僕だけかもしれない。
だってまた畑葉さんと色んな遊びをすることが出来るから。
そうルンルンな気持ちで学校へ向かった。
ふと、
なぜかコンビニに寄りたくなり、先に行く。
コンビニで買ったのはシャボン玉とラムネ。
飲む方だ。
シャボン玉は子供らしいが、夏らしさもある。
シャボン玉をしている畑葉さんを見てみたいと思い、買ってしまった。
「古佐くん、それ何?」
授業は終わり、放課後時間になる。
授業が終わって早々に畑葉さんに言われた。
どうやらコンビニの袋がリュックから少し見えていたらしい。
「秘密」
「いつもの場所で教えてあげる」
そう僕が言うと
「早く行こ!!」
といち早く、
誰よりも先に玄関へ行き、
靴を履く。
『追いかけっこだー!!』と言いながら畑葉さんは走っていく。
畑葉さんを追いかけたらクタクタになってしまった。
でも、そんくらいが夏らしい。
「で、それ何?」
少し興奮気味な畑葉さんが聞いてくる。
あんなに走ったのにも関わらず、
息切れ1つ無いのが僕にとってはとても恐ろしい。
「シャボン玉だよ」
そう言って袋からシャボン玉を取り出し、
見せる。
「シャボン玉…?」
首を傾げて問いかける。
もしかしてシャボン玉自体を知らない?
そんなことあるのだろうか。
「これは、こうやって…」
そう言いながらシャボン玉液に付け、吹く。
と、大小様々な水晶玉がふわりふわりと飛んでいく。
中には残るものもあれば、
割れてしまうものもある。
「綺麗!!」
目をキラキラと輝かせながら
「私もやりたい!!」
と言う。
畑葉さんって大人っぽい時もあるが、
大抵は子供っぽい。
でもそんなところが畑葉さんらしい。
コンビニの袋からもう1つのシャボン玉セットを取り出し、渡した。
1回吹いてはまたもう1回と繰り返す。
たちまち僕と畑葉さんはシャボン玉たちに包まれていく。
「あ!見て見て!!」
そう言って畑葉さんは少し大きなシャボン玉を指差した。
「大っきく出来たんだ〜!」
そして誇らしくそんなことを言う。
「疲れたね〜…」
シャボン玉液がほぼ無くなるくらいになった時、畑葉さんはそう呟く。
「喉乾いてる?」
「めっちゃ!!」
「だと思った」
「ジャジャーン!!」
そう言ってマジックショーのようにラムネを取り出し見せる。
「あー!!それ知ってる!!」
「ビー玉ジュースでしょ!!」
そう興奮気味にラムネに指を差す。
というか『ビー玉ジュース』って何?
「え?」
「何?ビー玉ジュースでしょ…って」
「言っただけだけど?」
互いに顔を合わせ、ハテナマークを浮かべる。
「ラムネ…だけど……」
「ラムネ?それラムネって言うの?」
「うん」
「『ビー玉ジュース』って呼ばないの?」
「呼ばないよ」
「なーんだ、私だけか…」
そうガクリと肩を落とすも、
熱い眼差しはラムネの方を向いていた。
「飲んでいい?」
我慢しきれなくなったのか、
自ら提案してくる。
「いいよ」
笑いを堪えながら渡すも、
どうやら開け方が分からないらしい。
ペットボトルのように捻って開けようとしても開かない。
しかも付属の開けるための物を『なんだこれ』と見つめるのみ。
そんな姿が面白くて吹き出してしまう。
「こうだよ」
開け方を聞かれる前に僕は畑葉さんのラムネを開けてあげた。
すると
「これ考えた人天才だね…」
「あ、美味しい」
と言う。
しかも自分が思ったよりも美味しかったのか、
グビグビと飲んでいく。
実はというと僕はあまり炭酸が好きじゃない。
なんだか舌がピリピリするから。
ビールを飲む大人のような畑葉さんを横目に、
僕はちびちびと飲む。
「このビー玉取れないの?」
そう言いながら畑葉さんは瓶を逆さにして取り出そうと試みていた。
そんな姿を僕はラムネの瓶越しに見ていた。
ら、
「あ!!面白そうなことやってる!!」
「私もやろ〜!」
と真似してきた。
「古佐くんが瓶の中に居るみたい!!」
「可愛い〜!!ミニ古佐くんだ〜!」
さらっと『可愛い』と言ってくる。
そんな時、
僕の目に何かが映ったような気がした。
ラムネの中にあるビー玉に反射して。
見ると、
ラムネのビー玉越しに桜の木が映っていた。
が、瓶の先にあるのは畑葉さんの姿。
しかも半分ほど残っている僕のラムネは桜色になっていた。
あの日と同じ、
あの線香花火と同じ、
桃色が。
この不思議な現象は何なのだろうか。
そう思いながら無意識的に首を傾げる。
そういえばシャボン玉をしている時も、
シャボン玉が虹色に反射するはずだが、
畑葉さんの近くにいるシャボン玉たちだけ桃色の反射があった。
これもなにか関係があるのだろうか。
桜色…
桃色…
もし、
畑葉さんが『人間じゃない』と仮定して、
前に『春の精になりたい』と言っていたが、
本当に春の精だった場合、
この桜色の件も解釈一致だ。
そんなファンタジーなことは有り得るのだろうか。
でも春の精なら夏に居なくなってしまうのでは無いのだろうか。
そんな不安が頭をよぎる。
が、
「これ太陽映したら太陽が入った瓶になる!!」
「映すものが全部ミニサイズだ〜!!」
という畑葉さんの声が聞こえ、
現実へと引き戻される。
見ると、
畑葉さんはラムネの瓶を持ちながら至る景色を映していた。
畑葉さんと会ったのは『春』
でも今は『夏』
てことは畑葉さんは春の精では無いということが分かる。
じゃあ居なくならないんだな。
良かった。
そう心の中で安堵しながら胸を撫で下ろす。