テラーノベル
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翌日。
昨日のことが、まだ体に残ってる。
袖をつかめたこと。
逃げなかったこと。
「……大丈夫かも」
そう思ったのに。
昼休み。
廊下は、人でいっぱいだった。
「ごめん、通る」
誰かの声。
そのまま肩が、軽くぶつかる。
「…っ、!」
一瞬。
ほんの一瞬で、全部が戻る。
-「来い」
違う。
違うのに。
「……やだ」
足が止まる。
呼吸が早くなる。
周りの音が遠くなる。
「元貴?」
後ろから、若井の声。
でも、それすら遠い。
「……来ないで」
反射で出た言葉。
自分でも止められない。
「…わかった、」
すぐに足音が止まる。
その判断が、余計に胸に刺さる。
「やだ……」
手が震える。
昨日できたのに。
ちゃんと触れたのに。
「なんで…、」
また、戻る。
全部、なかったみたいに。
「…最悪」
視界が滲む。
息が苦しい。
「元貴」
少し離れた場所からの声。
近づかない距離。
でも、ちゃんと届く声。
「今、どこ見てる」
「……え」
予想外の言葉に、思考が止まる。
「床?壁?」
落ち着いた声。
指示じゃない。
でも、導くみたいな言い方。
「……床」
かすれた声で答える。
「じゃあさ」
少しだけ間。
「俺の靴、見える?」
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視線を少しだけ動かす。
「…見える」
「何色?」
「くろっ、」
呼吸が、ほんの少しだけ戻る。
「いいよ」
優しい声。
「ちゃんと今にいる」
その一言で、胸がじんわり熱くなる。
「……っ」
涙がこぼれる。
「ごめん…。」
かすれた声。
「昨日、できたのに」
それが一番悔しい。
「…元貴」
少し間があって。
「できてるよ」
「……どこが」
「今」
はっきりした声。
「ちゃんと戻ってる」
「……っ」
言葉に詰まる。
「昨日もできた。今日もできた」
淡々とした言い方。
でも、優しい。
「揺れてるだけ」
否定されない。
でも、折れさせない。
その言葉が、ちゃんと届く。
「……ほんとに」
「ほんとに」
迷いのない声。
「だからさ」
少しだけ柔らかくなる。
「ゼロに戻ってない」
その一言で、胸の奥が少しだけ軽くなる。
「……っ」
息を吸う。
まだ怖い。
でも、さっきよりは大丈夫。
「……ありがと」
小さく言う。
「うん」
それだけ返ってくる。
それ以上、何も求めてこない。
その日の帰り道。
昨日より、少し距離がある。
でも、それでいい。
「……元貴」
「なに」
「さっきの」
少し間。
「ナイスだった」
「……やめて」
反射で言う。
でも、前より弱い。
「ほんとに」
軽く続けられる。
「……うるさい」
少しだけ、息が楽になる。
しばらく歩いて。
ふと、昨日のことを思い出す。
袖をつかんだ感触。
逃げなかった自分。
「元貴」
「なに」
「今日、無理すんなよ」
その言い方が、優しい。
命令じゃない。
ただの言葉。
「……うん」
小さくうなずく。
少しだけ、手を見る。
まだ、少し震えてる。
でも。
「……ちょっとだけ」
ぽつりと呟く。
「ん?」
「やってみる」
自分に言い聞かせるみたいに。
一歩、近づく。
昨日より、怖い。
さっき崩れたばっかりだから。
でも。
「…いい?」
確認する。
「いいよ」
すぐに返ってくる。
それ以上、動かない。
待ってる。
「……っ」
手を伸ばす。
昨日と同じ。
袖に触れる直前で、止まる。
怖い。
さっきの感覚が、まだ残ってる。
でも。
「元貴。」
静かな声。
それだけで、戻れる。
「……大丈夫、」
小さく呟く。
そして。
また、袖をつかむ。
「……っ」
ちゃんと、触れた。
昨日より、少しだけ震えてる。
でも、離さない。
「……どう」
また聞く。
「大丈夫そう」
即答。
その声が、支えになる。
少し歩く。
さっきより、呼吸は安定してる。
でも、。
「……元貴」
「なに」
「無理してない?」
その言葉で、少しだけ考える。
「……ちょっとだけ」
正直に言う。
「でも」
続ける。
「やめたいとは思ってない」
それが、本音。
「……そっか」
少しだけやわらかい声。
そのとき。
風が吹く。
袖が、ふわっと揺れる。
指が、少し外れそうになる。
「……っ」
一瞬、焦った。
離れたい。
そう思った瞬間。
「……」
考えるより先に。
別の場所に、触れていた。
「……え」
自分で、止まる。
指先が、若井の手に触れている。
ほんの少しだけ。
「……っ」
心臓が、跳ねる。
怖い。
でも。
離したくない。
「…元貴、」
驚いた声。
でも、動かない。
「ごめんっ、」
反射で言う。
「違う」
すぐに否定する。
「……そのままでいい?」
小さく聞く。
震える声。
「いいよ」
迷いのない返事。
その言葉で、少しだけ力を入れる。
完全には握れない。
でも。
指先が、少しだけ重なる。
「……っ」
怖い。
でも。
「大丈夫、!」
自分で言う。
「よかった」
すぐに返ってくる。
「ちゃんと今だね」
その言葉が、しっかり届く。
まだ怖い。
たぶん、これからも。
でも。
昨日できたこと。
今日崩れたこと。
それでも、また触れたこと。
全部、消えてない。
「……ちょっとずつ」
小さく呟く。
「うん」
隣で、同じ速さで歩く気配。
引っ張らない。
でも、離れない。
そのまま、指先だけ触れた距離で。
少しだけ、前に進んでいった。
ひいやあああ!!!!
コメント
6件
毎回読み進めるごとにやっぱり好きってなるのほんとに 🤦🏻♀️🤦🏻♀️ トラウマが蘇ってもちゃんと若井さんの言葉を聞いて大丈夫ってなる感じ好きすぎて 😻 続きも楽しみにしてる‼️‼️🤙🏻💛
うわあああ…!!😭💕 第10話、読み終わったよ…! 「昨日できたのに、今日崩れた」ってとこ、めっちゃ胸にきた…。トラウマってそういうもんだよね、一直線じゃないんだよなあ。でも若井くんの「揺れてるだけ」「ゼロに戻ってない」って言葉が優しすぎて泣ける…。指示じゃなくて導くみたいな距離感、最高すぎる。 最後の指先が触れるシーン、震えながらも「離したくない」って思う気持ちが伝わってきて、こっちまで息止まった…!「ちょっとずつ」って呟く元貴くん、尊すぎるよ…!!次話も楽しみにしてるね🌸