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「樹。お前には今後、副社長として私を支えてもらおうと思ってる」
一瞬、諦めかけた時、そんな言葉が社長から聞こえる。
「え・・・?」
樹もすぐには理解出来なくて、聞き返す。
「副社長として、お前にはこれからもっと責任を持って立派な人間になってもらわなきゃ困る。その立場をしっかり意識して、これから会社も大切な相手も守れるような一人前の男前になりなさい」
それは反対するどころか、思ってもいない言葉だった。
「それって・・・」
樹はその言葉がまだ信じられないような驚いた顔をしながら呟く。
「ようやくお前が心から大切だと想える人に出会えたんだ。必ず二人で幸せになりなさい」
え・・・?
それって・・許してもらえたってこと・・・?
「親父・・・。結婚、許してくれるってこと・・?」
「あぁ・・。そもそもお前がちゃんと決めた結婚だろう。反対しようとも思ってない」
社長は何の戸惑いもなくサラッと自然に答える。
「えっ!?」
樹がビックリして反応する。
もちろん私も驚いていて。
それは結婚と仕事、どちらも樹を認めてくれた瞬間だった。
「あんなにオレが嫌がってもいろんな相手連れて来て結婚させようとしたくせに・・」
「それはお前がハッキリしなかったからだろう」
「えっ、オレのせい・・?」
「お前がいつか自分で決めた相手を連れて来るまでは、私が決めようとしたまでだ」
「えっ、どういうこと?」
「お前がどこまで本気なのかずっと見てたんだ。今までのお前は何事にも中途半端で真剣になることなんてなかったんだからな。そんなお前にこの先この会社を任せていいのかも見極めたかったし、お前がどこまで真剣に今の女性に本気なのか知る必要があった」
「なるほど。そういうことか・・」
ようやく樹が納得したように呟く。
そっか。
最初から反対なんてしてなかったんだ。
すべては樹の為に、父親として考えていたからだったんだ。
「しかし、お前が望月さんと出会ったことで、どれだけ成長したのかはもう十分わかってる。いつの間にか父さんの会社も母さんの会社も力になって助けてもらうほどのヤツになったとはな。あの時結婚させずにお前を信じてすべて任せたのはそういうことだ」
「じゃあ、最初のあの時からオレを信じてくれてたってこと?」
「あれだけお前は自分を信じてくれと言い切ったんだ。この会社も母さんの会社も絶対救うと躊躇なくお前は私に言い切った。そして、それだけのことをやり遂げるほど、守りたい女性がいるというんだから、信じてやるしかないだろう」
「親父・・・」
あの時の樹は、ホントに守るモノが多すぎて。
それはあまりにもどれも大きすぎて。
それを全部守ると言い切った樹は、どれほど一人ツラい想いをして頑張ったのだろう。
ホントなら私が少しでもその負担やツラさをわかってあげたかった。
だけど、あの時はそれさえも出来ない私も守られている立場にいて。
せめて側で支えてあげたかった。
せめて一緒にいたかった。
何も出来なくても、私はずっと樹を信じているからと、せめてその気持ちを伝えたかった。
だけど、私はあの時、まだ自分にも樹の気持ちにも自信が無くて、離れる選択をしてしまった。
なのに樹はそんな時でさえも、ずっと守ってくれていた。
私への想いを、私のことを、ずっと信じてくれていた。
何があっても、きっと樹だけは変わらずに。
時間を経て知った、その樹の想いに胸が熱くなる。
「樹。あなたはずっとお父さんに反抗的だったけれど、お父さんはずっとあなたの幸せを願ってたのよ」
そしてそんな二人を見て、REIKA社長が優しく声をかける。
「今までそんな素振り一度も見せたことないくせに・・・」
樹は少し戸惑いながら照れくさそうに、そっと呟く。
「そうよね。でもそれはお父さんが別れた時に決めたことだから。樹が甘えずにいつかちゃんと誰かを守れるようにって」
「二人のことだってオレは誤解して・・・。それもちゃんと言ってくれれば・・・」
いつだか樹が言ってた。
父親は不器用な人だって。
確かにそうなのかもしれないと、話を聞いてて思った。
一緒にいた時から、そして別れてからも、願う想いは一つなのに、言葉にしないだけで、こんなにも伝わらなくて、受け取ることが出来なくて。
だけど、きっと樹も必要以上には歩みよろうとしなくて、結局伝えたい想いはお互い平行線だったんだな・・。
「それもあなたが本当に大切だと想える人と出会えるまでは、私たちの本当の想いも離れた理由も言わないでおこうって決めたのよ」
「どうして・・?」
「私のためにお父さんと離れたことは事実だし、それであなたには寂しい思いもさせてたのも事実。だけど、それは私たち二人には必要な別れだった。お互いを想い合っていれば、それで私たちは良かったのよ。だけど、小さかったあなたには当然説明してもわからないし、かといってそれなりの年齢になったあなたは、誰かを想う大切さも知らないままでいた。だからいつかあなたが本当にそういう人と出会って理解出来るようになるまでは言わずにいようって」
「そっか・・・。うん。今ならわかるよ、その気持ち・・。オレも彼女とここまで辿り着くまで同じ経験したから・・・」
そう。
樹と私も、好きだけじゃ一緒にいられない悲しさを知った。
そして離れていてもずっと変わらない確かな気持ち。
だけど何があってももう離れないと決めた。
「だが、結局お前を思ってしたことが、私たちと同じような別れを経験させてしまった」
社長が少し申し訳なさそうに樹にそう呟いた。
「どうしてそれを・・?」
「神崎からすべて報告してもらってるよ。お前たちがどれほど想い合ってて、一度別れても、それでも信じ合って今一緒にいると」
「神崎さんが・・?そっか・・全部知ってたんだ・・」
神崎さんが全部伝えてくれてたなんて・・・。
それを知ってた上で、社長も樹を判断して、私たちのことも受け入れてくれたってことなんだ・・。
「だから私たちは嬉しいのよ。樹が本当に愛する人と出会えて自分の幸せを見つけてくれたことが」
REIKA社長は、とても優しい素敵な笑顔で樹に微笑みかけながらそう伝える。
「ありがとう母さん。母さんはずっとオレと彼女のこと応援してくれて心配してくれてたのホント感謝してる」
「母親はついつい息子に甘くなるものだから仕方ないわよね。ようやく私も今になってあなたの幸せを応援して支えてあげられるようになったから。これからも力にならせてちょうだい」
「うん。ありがとう」
やっぱりこの二人はお互いを想う空気感が優しくて。
同じように自分も優しい気持ちになる。
一緒にいなくても繋がっている絆と想い。
きっと二人は両親として、ずっと樹を見守ってきてた。
それが例えどんなことになろうと、きっと二人は樹を守ったはず。
樹がもし誰かを愛せないままでいたら、きっと樹が寂しい思いをしないように、側で支えてくれる人を選んで、誰かを愛せる幸せをきっと伝えていたはずだろうし。
だけど、もし、自分でそういう相手に出会えたのなら、こんな風に樹がその幸せを手にしていけるようにと、きっと願っていたはずだから。