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眩しい朝陽がカーテンの隙間から差し込む。
ルイがゆっくりと瞼を持ち上げると、そこには自分をじっと見つめるマイロの瞳があった。
昨夜、醜い独占欲をさらけ出した自分を、彼女は今もなお、穏やかな眼差しで見つめている。
「……おはよう、ルイ姉。よく眠れた?」
その鈴の鳴るような声に、ルイは一瞬、心臓が跳ねるのを感じた。
「ルイ姉」という、かつての呼び名。
記憶を失ったはずの彼女が、本能で選び取ったその言葉が、ルイの胸に深く、甘く突き刺さる。
「……ああ。おはよう……悪かった。昨夜は、その……取り乱して」
「ふふ、いいんですよ。あんなに泣き虫な騎士様を放っておいたら、恨まれるかもしれないし」
くすくすと笑うマイロの表情は、記憶を失う前の生意気で誇り高い幼馴染そのものだった。
ルイは顔を赤らめ、視線を泳がせる。
支配者として彼女を檻に閉じ込めたつもりだったのに、気づけば主導権は、この華奢な少女の指先に握られているようだ。
なにが一体ここまでマイロを覚醒させたんだ?
マイロはふわりとベッドから抜け出すと、首元の銀のチョーカーを指先で弾いた。
冷たい金属音が、静かな朝の空気に凛と響く。
「ルイ姉。今日は、私が朝食を作ってもいいですか?」
「マイロ……? だめだ、君はまだ体が……それに、外は危ないと言っただろう」
「外には出ませんよ。この家にあるもので作ります。……それに、私をただの飾り物にするつもりですか? 騎士様を支えるのは、お嫁さんの役目でしょう?」
さらりと言い放ったマイロに、ルイは絶句して固まった。
お嫁さん。
「……お、およ……っ、何を……!どうした!?」
「あら、嫌でしたか? ……ルイ姉が私を『自分のモノ』だと言ったんですよ。責任、取ってくださいね」
マイロは楽しげに笑いながら、キッチンのほうへと歩き出した。
残されたルイは、自分の顔が茹で上がるほど熱くなっているのを自覚し、シーツを握りしめた。
……救ったつもりで、支配したつもりで……
ルイは、自分の首筋まで赤くなっているのを隠すように、枕に顔を埋めた。
かつて檻の中で震えていた少女は、今やこの「銀の檻」を、自分たちの「家」へと塗り替えようとしている。
その強さが、眩しくて、愛おしくて、……何よりも恐ろしい。
ルイはふと、窓の外に目を向けた。
平和な鳥のさえずりの向こう側で、昨夜自分が感じた「不穏な影」は、まだ消えてはいないはずだ。
……マイロ。君が笑うたびに、私は、もっと深く闇に手を突っ込む覚悟が決まってしまう。
ルイは重い腰を上げ、彼女が待つキッチンへと向かった。
そこには、かつて夢にまで見た、けれど二度と手に入らないと諦めていた「日常」の匂いが満ち始めていた。