テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
裏山の奥に、ぼくらの秘密基地があった。
「危ないから行くな」って大人に言われてる場所ほど、 どうしても行きたくなるもんで
錆びた一斗缶や、捨てられた木箱を運んで
誰にも見つからないように、こっそり作った。
学校じゃ先生の言うことは絶対で、
家じゃ親の機嫌ひとつで空気が変わる。
でも、あそこだけは違った。
名前を呼び捨てにして
くだらないことで笑って
誰にも聞かれない声で
ちょっとだけ、本音をこぼせる場所だった。
あいつは、親父の話になると黙るやつで、
ある日、基地の隅っこで言った。
「早く大人になりてぇな」
その言い方が
強がりなのか、本気なのか、
ぼくにはわからなかった。
ただ、そのとき吹いた風がやけに冷たくて
なんだか、そのまま黙ってしまった。
しばらくして、
あいつは急に来なくなった。
理由なんて誰も教えてくれない。
聞いても「子どもは気にするな」で終わりだった。
だからぼくは、ひとりで基地に行って
少し傾いた屋根を直して
置きっぱなしの空き缶を並べ直して
何も変わってないふりをした。
——いつか戻ってくる気がしてた。
でも、夏が終わって
風が冷たくなっても、
あいつは来なかった。
それでも、
あの場所だけはまだ残っている。
なくなるのは、場所じゃなくて、
そこにいた時間のほうなんだって
そのとき、はじめて知った。