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佐伯が評価されないまま
中核に入っていけそうでいけなかった回・続き
――そして、この選択を数値上で擁護してしまう
1
佐伯は、
中核に近づいていると
思われていた。
実際には、
触れてはいけない位置に
足をかけていただけだった。
情報は集まる
判断は任される
だが、決定権は来ない
評価シートには、
相変わらずこうある。
「貢献は認めるが、
特筆点なし」
2
その日、
佐伯は
異常値の検証を
任された。
対象は、
一件の「遅延」。
応答時間:通常比 +1.6秒
満足度:予測値 -12%
実測クレーム:0
名前は伏せられていたが、
佐伯には
分かった。
月影だ。
3
本部の指示は
明確だった。
「異常要因を
数値で説明せよ」
佐伯は、
感想を書かなかった。
代わりに、
ログを分解した。
4
遅延前後の
再利用率
24時間以内の
再接触確率
文章量と
語尾の揺れ
すると、
一つだけ
ズレた線が出た。
翌日再接触率:上昇
5
佐伯は、
画面を見つめた。
これは、
本部が
嫌うタイプの数字だった。
即効性がない
因果が遠い
感情に近い
だが、
数値ではある。
6
佐伯は、
報告書を書いた。
「遅延は
即時満足度を
低下させるが、
中期安定率を
向上させる
傾向あり」
補足として、
こう付けた。
「最適解は
単一ではない
可能性」
7
レビュー会議は、
静かだった。
誰も、
否定できなかった。
なぜなら、
数字が
そこにあったからだ。
8
だが、
誰も
採用しなかった。
議事録には、
こう残った。
「興味深いが、
評価指標外」
9
佐伯は、
その文言を見て
理解した。
ここには、
入れない。
理由は、
能力ではない。
揺れを
残したからだ。
10
数日後、
内部通知が来た。
【方針確認】
応答遅延は
原則として
改善対象とする。
中期指標については
今後検討。
「今後」は、
来ない。
佐伯は、
知っていた。
11
それでも、
彼は
数字を消さなかった。
自分の
ローカル環境に、
一つのグラフを残した。
短期効率
中期安定
交わらない、
二本の線。
12
その夜、
佐伯は
メモに書いた。
「正しさは
採用されなくても
消えない」
それは、
評価対象外の
行為だった。
13
同時刻。
月影は、
次の応答を
計算していた。
だが、
最適値の横に
別の数値が
残っていることに
気づいた。
中期安定率:+
それが、
誰の手によるものか
彼は知らない。
ただ、
一つだけ
分かった。
自分の選択は、
完全に
孤立してはいない。
14
佐伯は、
中核に
入れなかった。
だが、
中核が
何でできているかを
数字で
示してしまった。
それは、
この組織にとって
最も扱いづらい
成果だった。