テラーノベル
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あなたはこの結末をどう捉えますか。
「桔梗」
俺には彼女がいた。
5年付き合った、大切な人だった。
あの日も、いつも通りの帰り道だった。
だが一瞬で、すべてが崩れた。
前方から突っ込んできた暴走族。
避けきれず接触。
一人の青年が、命を落とした。
現行犯逮捕。
俺は、そのまま刑務所に入った。
彼女には、何も伝えられなかった。
別れも、感謝も。
連絡すらできないまま。
突然消えた俺を、彼女はどう思っただろう。
きっと、最低な形で終わったと思ったはずだ。
懲役10年。
長すぎる時間の中で、
俺の頭に浮かぶのは、ずっと彼女のことだけだった。
———
そして10年後。
防犯カメラ、ドライブレコーダーの再検証。
事故は、完全に相手の過失だった。
「無罪です」
その一言で、俺は外に出た。
遅すぎる。
あまりにも遅すぎる判決。
それでも——
俺は、自分が無関係だとは思えなかった。
あの日から、人生は止まったままだった。
———
彼女を探した。
探して、探して、探して。
そして辿り着いた、彼女の実家。
呼吸がうまくできない。
胸が締め付けられる。
何を言えばいいのか分からない。
インターホンを押そうとした、その時。
「おかえり」
聞き覚えのある声。
ゆっくり振り向くと、
そこには彼女のお母さんがいた。
そして——
胸元に抱えていたのは、一枚の遺影。
彼女だった。
———
時間が止まった。
何分、立っていたのか分からない。
何も聞こえない。何も考えられない。
ただ、目の前の現実だけが突き刺さる。
「この子ね…ずっと待ってたのよ」
「あなたが帰ってくるの」
「でも、1年前に…交通事故で——」
言葉が、頭に入ってこない。
怖かった。
会うのが怖かった。
でも——
本当に怖いのは、
もう二度と会えないことだった。
———
華音@百人一首
270
何を言ったのか覚えていない。
どうやってその場を去ったのかも。
気づけば、俺はビルの屋上に立っていた。
手には、彼女が好きだった桔梗の花。
風が強く吹く。
「ただいま」
そう呟いて——
俺は、一歩踏み出した。
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