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急遽、劇団から昨日話した内容の修正がしたいと言われた僕は、また打合せに出かけていた。思いのほか修正箇所が多く、打合せが終わった頃にはすっかり夜も更けてしまっていた。君は家に帰っているだろうか。また症状が出ていないだろうか、と君のことを気にかけながら、急いで家に帰る。

「ただいま!」

返事がない。まさか、まだ帰っていないのか…?そう思った瞬間、部屋の隅から君の啜り泣く声が聞こえる。

「大丈夫。もう僕が帰ってきたから、なにも心配することないよ。」

大丈夫?と聞くことは嫌いだ。大丈夫かと聞かれると、人は決まって強がってしまう。本当に大丈夫な人は一人で泣いたりしない。何か不安なことがあったり、辛いことがあることは明らかだ。そんな感情を少しでも和らげてあげられるように、優しく声をかけた。

「どうしたの?何かあったのか僕に教えてみて。僕にできることがあれば、なんでも力になるよ。」

君からの返事はない。相変わらず部屋には啜り泣く声が聞こえる。よほど辛いんだろう。僕には、君の背中を優しくさすってあげることくらいしかできない。それから暫くして、君が重たい口を開く。

「あのね、私、死にたいの。理由なんて特にないんだけど、生きていることが辛い。消えてしまいたい。」

彼女の口から溢れたのは、衝撃的な言葉だった。今の今まで、そんな前兆は一ミリ足りとも見えたことがなかった。むしろ、毎日明るく笑顔を振りまいてくれる天真爛漫な姿しか見えていなかった。僕の側では無理をさせていたのかもしれない。きっと一人になると不安になってしまうんだろう。

「そっか。死にたくなっちゃったか。そんな気分になっちゃうことだってあるよね!」

あまりの衝撃にまた言葉が空回る。

「じゃあさ、一緒に死んじゃおっか。」

「え…?」

「僕も、こんな世の中にはうんざりしていたんだ。誰もがみんな自分のことしか考えていない。本気で頑張っている人たちを見て、後ろ指を指して批判する人間。他人の心配をするふりして、自分が満足することしか考えていない人間ばっかりだ。こんな世界、生きていたって意味がないよ。」

「ううん。それは違うよ。こんな世界にだって、君みたいな心が綺麗な人もいる。他人のことを本気で思いやれる人だっているんだよ?君は死んだりしちゃだめだよ。」

「ありがとう。君がそう言ってくれると、本当に嬉しいよ。でもね、君がいない世界なんて、僕にとってはなんの価値もないんだ。だから、君が生きていてくれる限り、僕はこの先何十年だって生きるし、君が死ぬって言うんなら、今すぐにでも死んだっていい。」

「なにそれ。ばかみたい。」

「ばかだよ。それだけ君のことを思っているんだ。」

「じゃあ、私死ねない。私のせいで君が死ぬって言うんなら、君のために生きてみせる。」

「それはだめだよ。僕という存在が理由になって、君の選択を左右するわけにはいかない。本気で辛いときには、自分の心にちゃんと聞いてみて。」

「なにそれ。じゃあ私一体どうしたらいいの?」

「それなら、もしまた次に死にたくなったときに備えて、君がやりたいこと、全部やり切ってみようよ。」

「生きているうちにやりたいこと?」

「そう。前に見た映画覚えてない?余命宣告された二人が、残された時間にやりたいことをリストにして、順番に叶えていく話。」

「覚えてる。絶対に叶いそうにない夢は追わないで、ちょっと頑張れば叶いそうな夢を全部叶えていこうとするやつだよね。」

「そう。それ。あれ、僕ら2人でやってみようよ。ひょっとすると、そうやって楽しいことをしているうちに死にたい気持ちなんてどこか吹っ飛んじゃうかもしれないよ?」

「そっか…そうだよね…よし!やってみよう!」

君の顔に表情が戻る。負の感情から抜け出せたようだ。

「よし!じゃあ早速リストを作っていこう!」

そう言って、僕らはつらつらとやりたいことを綴っていく。

今までやったことがないことや、もう一度やりたいこと。思いついたことは全部紙に書き殴る。気づけば、僕らのやりたいことは千の数をゆうに超えるほどに膨れ上がっていた。まあ、カツ丼を食べたいだとか、白子を食べてみたいだとか、くだらないことも含めての数ではあるが。

「ねえ、もうひとつだけあったよ、私がやりたいこと。」

ひと通り書き終えたあと、君が僕の顔を見て話し出す。

「お、なんだい?改まって。」

「この前行った場所あるでしょ、君が私に告白してくれた場所。」

「うん。2人で星を眺めた屋上のことだよね。」

「そう。そこ。」

君は一息ついて暫く間を空けたあと、そのまま言葉を続ける。

「私ね、もう一度あそこにいきたい。君とふたりで、もう一度あの綺麗な星を見たい。」

「いいね、それ。見に行こう。また絶対に2人であの星を見よう。」

「やった!ありがとう。約束だよ?」

「もちろん。約束する。だから、それまで絶対に死んだりしたらだめだからね?」

「うん。絶対に死なない。君と2人で生き抜いてみせる。」


そう言って、君と僕は小さな約束を交わした―――。

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