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やりたいことがたくさん書かれた紙をまとめて、僕らはひとつのノートを作った。その数は、数十ページでは収まりきらないほどに分厚いものだった。
「このノート、なんだかまるで一冊の本みたいだね。」
君が吐息混じりの声でそっと囁く。
「ほんとだ。僕らが作った本だよ。これ。すごいよね。」
「ねえ、この本、やりたいことを全部叶えたらどこかで出版とかできないかな?」
「それは難しいんじゃないかなあ。だって、僕らがただやりたいことを綴っただけの、いわばメモのような本だよ?」
「うーん。だめかあ…。せっかく作ったんだから、形に残るようなものにしたいよね。」
「じゃあさ、僕らが出会ってから今まで過ごしてきたことも全部物語にして、ひとつの作品にしようよ。」
「いいねえ!それ!やりたい!でも、そんなこと私たちにできるかなあ。」
「できるよ。僕、実は物語を考えるのは得意なんだ。」
そう言って、僕は劇団の脚本を執筆する仕事をしていることを君に打ち明けた。今まで書いた脚本のストーリーなんかも話している内に、楽しくなって話しすぎてしまった僕は、次第になんだか申し訳ない気持ちになっていった。君は僕の書いた脚本を読みながら、ずっと黙り込んでいる。こんなに話してしまって自慢臭くなってしまっていないだろうかと、ふと不安になり君に問いかける。
「ごめんね。僕ばっかりいっぱい話しちゃって。興味ないよね。こんな話。」
「ううん!そんなことない!すごいよ!本当にすごい!君って天才だったんだね!」
君は目を輝かせながら、僕の瞳を見つめてそう言ってくれた。僕は君に褒められたことが嬉しくて、今にも叫び出したい気分になったが、ぐっとその気持ちを堪えた。
「ありがとう。なんだか恥ずかしいなあ。君にそれだけ褒めてもらえるなんて、思ってもみなかった。」
「どうして、こんなにすごいこと今まで黙ってたの?」
不思議そうな目をしながら僕に問いかける。「別に隠していたわけじゃないんだ。今まであんまりお互いの話したことなかっただろう?言うタイミングがなかったっていうだけだよ。」
「そっかそっか。それはしょうがないねえ。よし。許す。」
それからまた君は僕の書いた脚本の続きを読み出す。スッと息を整えた後、僕は君に打ち明けた。
「それにね、ちょっとだけ怖かったんだ。」
「怖かった…?どうして?」
「もしも、君に僕の書いた脚本のことを批判されたらどうしよう。さらにはこの仕事のことさえ馬鹿にされてしまったらどうしようとか。色々と考えちゃったんだ。」
情けない自分に思わず拳を握る。震えている僕の拳を見て、君はそっと優しく包み込んでくれた。
「批判なんて、するわけないよ。君の書いた脚本は本当にすごい。君の仕事だって、本当にすごい。心から尊敬する。」
いつまで経っても売れない劇団の脚本を書き続けていた僕は、いつしか自分に自信を失ってしまっていた。
そんな僕を認めてくれた君の言葉は、僕が少なからず抱いていたモヤモヤを一瞬にして吹き飛ばしてくれたんだーーー。