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「ほな」
今度は。
康二が声を上げた。
「俺も言おかな」
阿部が見る。
「康二も?」
「うん」
「無理しなくていいよ」
「ラウに言わせて俺黙っとるんも違うやろ」
「別に順番じゃないよ」
「まあな」
康二は笑う。
それから。
テーブルに置いていたカメラへ触れた。
「俺は」
「うん」
「写真やな」
阿部は。
康二の指先を見る。
「写真?」
「現実にも」
康二が言う。
「あべちゃんの写真、めっちゃあるねん」
「そりゃ康二だもんね」
「そう」
少し笑う。
「笑っとるあべちゃん」
「飯食っとるあべちゃん」
「寝とるあべちゃん」
「ライブの裏側とか」
「九人のやつとか」
「めめと二人のやつも」
目黒が少し顔を上げる。
「それは消して」
「嫌や」
「なんで」
「ええ写真やから」
「勝手に撮ってたの?」
阿部が聞く。
「自然なやつな」
「怖」
「怖ないわ」
みんなが少し笑った。
でも。
康二はすぐにカメラへ目を落とす。
「事件のあと」
「その写真、見たんよ」
阿部は黙る。
「病院で寝とるあべちゃん見て」
「うん」
「スマホ開いたら」
康二は。
苦しそうに笑う。
「あべちゃん、めっちゃ笑っとんねん」
胸が。
痛くなる。
「ほんの何日前とかの写真で」
「普通に笑って」
「俺にピースして」
#❤️💙
みら

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「みんなと喋っとって」
「それ見たら」
康二の声が震えた。
「なんで俺、何も気づかんかったんやろって」
「康二」
「写真いっぱい撮ってたのに」
「……」
「こんなに近くで見とったのに」
目が赤くなる。
「何も残せてへんかった」
「何も?」
阿部が聞く。
「苦しかったあべちゃん」
康二が答える。
「写真には、ほとんどおらんかった」
阿部は。
息を詰める。
確かに。
カメラを向けられたら。
笑っていたかもしれない。
いつもの自分を作って。
大丈夫な顔をして。
「笑っとる写真ばっかりやった」
康二が言う。
「だから余計怖くなった」
「何が?」
「写真だけ見たら」
康二は顔を上げる。
「ずっと幸せやったみたいに見えるやろ」
「……」
「でも違った」
涙が。
一滴落ちる。
「俺ら、知らんところであべちゃんボロボロになっとった」
阿部は。
何も言えなかった。
「だから夢に来て」
康二が続ける。
「またあべちゃんがおって」
「何も覚えてへんくても」
「笑ったり」
「困ったり」
「めめのこと好きになったり」
少し笑う。
「俺、全部残したくなった」
阿部の頭に。
写真集が浮かぶ。
カフェで働く自分。
数学を教える自分。
本を読む自分。
目黒を見る自分。
九人で笑う自分。
「だから、あんなに撮ってたの?」
「せや」
「仕事だからじゃなくて?」
「もちろん仕事も好きやで」
康二はカメラを持ち上げる。
「でも」
指で。
大切そうに本体を撫でる。
「今度はちゃんと見ときたかった」
「……」
「あべちゃんが笑ってる時も」
「怒っとる時も」
「泣いとる時も」
「全部」
声が震える。
「もう二度と」
少し言葉を止める。
「笑っとった時間まで、なくなったみたいにしたくなかった」
阿部の目から。
涙が落ちた。
「康二」
「ん?」
「写真に全部写るわけないよ」
「分かってる」
「俺も」
阿部は。
少し笑う。
「カメラ向けられたら笑ってたんだと思う」
「……」
「それは康二が気づかなかったんじゃなくて」
「俺が見せなかったんだよ」
「でも」
「うん」
「次は」
阿部が言う。
「ちゃんと言う」
康二が見る。
「しんどい時はしんどいって」
「うん」
「撮ってほしくない時は、今日はやめてって」
「うん」
「逆に」
阿部は少し笑う。
「撮ってほしい時は撮ってって言う」
康二の目から。
また涙が落ちる。
「……ほんま?」
「うん」
「いっぱい撮るで?」
「限度はあるよ」
「なんやねん」
「寝顔とか勝手に撮らないで」
「それは考える」
「考えないで」
みんなが。
少し笑う。
康二も。
泣いたまま笑った。
「じゃあ」
「何?」
「帰ったら」
康二はカメラを握る。
「次の写真、いっぱい撮らなあかんな」
阿部は。
一瞬だけ黙った。
帰ったら。
今度は。
康二の口から出た。
「うん」
阿部は頷く。
「いっぱい撮って」
「任せて」
静かになった。
けれど。
さっきまでとは。
少し違う静けさだった。
ラウールが。
もう一度食べ始める。
康二も。
カメラを持ち直している。
傷が消えたわけではない。
きっと。
今話しただけで。
全部楽になるわけでもない。
それでも。
昨日まで。
阿部は知らなかった。
ラウールが。
自分を頼ったことを後悔していたこと。
康二が。
笑っている写真を見ることさえ苦しかったこと。
知らないままだったら。
現実へ帰って。
また同じように。
何もなかったみたいに。
「大丈夫」と笑ってしまったかもしれない。
阿部は。
みんなを見た。
「ねえ」
「何?」
佐久間が聞く。
「俺」
少し考える。
「この夢、俺が休むためだけの場所だと思ってた」
誰も言わない。
「でも」
ラウールを見る。
康二を見る。
そして。
他のみんなを見る。
「違うんだね」
宮舘が。
穏やかに言う。
「そうかもしれないね」
阿部は頷いた。
「じゃあ」
少しだけ笑う。
「ちゃんとみんな休んでから帰ろう」
深澤が笑う。
「休むって言っても何すんの?」
「遊ぶ」
「雑」
「館さんたちは二人で夢の国行くんでしょ?」
渡辺が一瞬固まる。
「行くけど」
「ふっかと照も」
「行く」
深澤が即答した。
「佐久間はアニメイベント」
「そう!」
「康二は写真」
「まだまだ撮るで」
「ラウは」
阿部が見る。
ラウールは。
食べているものを持ち上げた。
「食べる」
「それだけ?」
「大事だよ」
「そうだね」
みんなが笑う。
阿部も。
笑った。
まだ。
誰の傷も。
笑い話にはなっていない。
でも。
傷の話をしたあとに。
こうして笑うことはできた。
なら。
少しずつでいい。
阿部は隣にいる目黒の手へ。
そっと自分の手を重ねた。
目黒も。
静かに握り返す。
今すぐではない。
でも。
いつか。
九人で帰る。
そのための時間が。
今日から始まった。
コメント
3件

お疲れ様です。 一気に読みました。 😭😭😭 🖤が抱えて居るのが大き過ぎます 自分のせいと思いたくなりますよね。 🤍🧡2人のは気付かなくてごめん的な感じかな 他のメンバー気になります。 💙はなかなか話さはうにないな…
ああ、もう……胸がぎゅっとなりました。 康二が写真に“笑ってる阿部ちゃん”しか残せなかったって気づくシーン、すごく重かったです。「何も残せてへんかった」って言葉に、どれだけ見てきたか、どれだけ見たかったかが全部詰まってると思いました。 でも、そのあとで「今度はちゃんと見ときたかった」って言えるのが康二らしいし、阿部ちゃんが「しんどい時はしんどいって言う」と約束するのも温かくて。傷の話をしたあとに笑える、その距離感が本当に好きです。 最後の手を重ねる仕草も、何より静かで優しかった。少しずつ、九人で帰る日が近づいている気がして、じんわりしました🌷