「お先に失礼します」
「はーい」
やっと仕事が終わった。樹もいるから早く帰ろう。
入口前に立つ人物を見て足を止めた。私に手を振って歩いて来る。
「誕生日おめでとう。1日遅れてだけど」
「どうも」
思い出した、昨日誕生日だった。北斗がいなかったら忘れたままだった。
「それだけ〜?○○が好きなチーズケーキもあるよ」
普通、元カノの誕生日って祝うものなの?心の中でケーキとどちらを取るか葛藤した。
「食べる」
まあいいや、ケーキは美味しい。
「このあと空いてる?久しぶりにご飯食べに行かない?」
「行かない。家帰んなきゃ」
「誰か待ってるの?」
まるで全て見透かしてるような言い方だった。図星で言葉に詰まる。少し間を置いて答えた。
「…いないよ。来週は空いてるからその時ね」
私は足早に会社から出た。
◇◆
家に入って靴を脱ぐ。リビングには明かりがついていていた。
「ただいま〜」
「その袋は?」
樹が北斗からもらったケーキの紙袋を指した。
「会社の人がケーキくれたんだ」
「冷蔵庫にしまっとく?」
「うん、お願い」
袋を渡して、自分の部屋でスーツを脱いで部屋着に着替える。部屋から出ると私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「なにー?」
「これ、誕生日おめでとうって書いてあるけど」
見てみると、ケーキの箱の上に付箋で確かにそう書いてあった。
「実は昨日、私誕生日で。それでケーキももらってさ」
「え、お前昨日誕生日?」
そんな驚く?ってくらい目を見開いて固まる。
「なんも用意してなかった…」
「そりゃあ知らなかったんだから無理だよ」
「なら言えよ」
食い気味に言われた。
「なら樹の誕生日はいつ?」
「6月」
「だいぶ前に過ぎてるじゃん!」
逆に自分は祝ってもらいたくないの?結局どっちもどっち。
「じゃあ来年は俺の誕生日祝って」
「いいよ。私のもね」
樹が右手の小指を差し出した。そこに自分の小指を絡めて指切りげんまんした。
私は安心した。来年は、ってその時までここに必ずいるんだ。
コメント
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フォロー失礼します🙇♀️ あと、この連載ブクマさせていただきます🙏