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kaede🍁
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それからも。
阿部は世界中を歩き続けた。
山へ行き。
森へ入り。
洞窟へ潜り。
海を渡り。
敵のモンスターを見つけては倒した。
気が付けば。
世界のほとんどから、危険なモンスターはいなくなっていた。
人間の村とモンスターの集落を結ぶ道ができ。
商人が自由に行き来し。
魔王軍の手下たちは人間と一緒に働いている。
最初は。
ただレベルを上げたかっただけだった。
どこまで強くなれるのか。
それが気になっただけ。
そして。
ついに。
『LEVEL MAX』
「……。」
阿部は表示を見つめた。
「カンストした。」
もう。
どれだけ敵を倒してもレベルは上がらない。
体力。
魔力。
攻撃力。
防御力。
どれも上限。
使える魔法も大量に増えた。
完全に。
この世界の魔王になっていた。
「……よし。」
阿部は黒い杖を握る。
残っている大きな仕事は。
あと一つ。
裏ボス。
そして。
手下のモンスターを人間にできる杖。
「行こう。」
___________
裏ダンジョンの最深部。
「……久しぶり。」
阿部は巨大な扉を見上げた。
前回。
賢者だった自分が苦労して辿り着いた場所。
でも。
今回は違う。
魔王。
レベルMAX。
装備も強い。
魔力も自動回復する。
「今回は余裕かな。」
そう思って。
扉を開けた。
___________
「……嘘でしょ。」
阿部は数分後。
自分の考えが甘かったことを知った。
ドォォォォン!
「うわっ!」
巨大な衝撃。
阿部は防御魔法を張りながら、後ろへ吹き飛ばされる。
「強すぎ!」
目の前には。
以前より遥かに巨大になった裏ボス。
「聞いてないんだけど!」
闇属性魔法を放つ。
黒い光が広がる。
今までなら。
これだけで大抵の敵は消えていた。
でも。
「……効いてない。」
ほとんどダメージが入っていない。
「カンストしてるんだけど、俺!」
裏ボスの攻撃が再び飛んでくる。
阿部は避ける。
その攻撃は。
阿部を通り過ぎ。
遥か後方へ向かっていった。
「……!」
その先。
遠くに小さな村が見えた。
「まずい!」
阿部は反射的に杖を振る。
巨大な防御壁を展開する。
ドォォォォン!
攻撃が壁へ直撃した。
「っ……!」
魔力が一気に減る。
それでも。
村には届かなかった。
「……危な。」
阿部は息を吐く。
そして。
気付いた。
ここで。
何も考えずに最大火力の魔法を使えば。
裏ボスは倒せるかもしれない。
でも。
その威力は。
周囲の山や森。
その先にある村まで巻き込む。
「……。」
阿部は周囲を見る。
ここへ来るまでに通った場所。
以前はモンスターだらけだった。
今は。
人が歩いている。
畑がある。
家がある。
子どもが遊んでいる。
人間とモンスターが一緒に暮らしている。
全部。
自分が敵を倒し続けた結果できた景色だった。
「……壊させない。」
阿部は杖を握り直す。
今までとは違う。
敵を倒すだけでは駄目。
この世界を守りながら。
倒さなければならない。
___________
そこから。
長い戦いが始まった。
攻撃を受け止める。
村へ向かった魔法を弾く。
森を守る。
山を守る。
逃げ遅れたモンスターを守る。
その合間に。
攻撃する。
「サンダー!」
効かない。
「ダークネス!」
少し削れる。
裏ボスから攻撃が飛んでくる。
「シールド!」
防ぐ。
また攻撃。
防ぐ。
攻撃。
防ぐ。
「……っ。」
自動回復するはずの魔力が。
回復速度に追いつかなくなっていく。
体力も同じだった。
減る。
回復する。
でも。
また減る。
「魔王なのに……。」
阿部は息を切らす。
「こんな疲れることある?」
裏ボスが巨大な魔法を放つ。
阿部は杖を両手で握った。
後ろには。
自分が安全にした世界がある。
「絶対。」
防御魔法を展開する。
「そっちには行かせない!」
激しい光がぶつかる。
地面が揺れる。
それでも。
阿部は退かなかった。
___________
どれだけ戦ったのか。
もう分からなかった。
ローブは破れ。
腕には傷。
足も震えている。
今まで。
モンスターを倒すのは。
レベル上げだった。
ゲーム感覚だった。
でも。
今は違う。
阿部は杖を握る。
「俺が。」
ここまで変えた。
最初は偶然だった。
ただ敵を倒していただけ。
それでも。
人が戻ってきた。
モンスターと人間が一緒に暮らし始めた。
子どもが外で遊べるようになった。
街道を普通に歩けるようになった。
それを。
「壊されたくない。」
阿部の周囲に。
黒い光が集まり始める。
残っている魔力を。
一つの魔法へ集める。
広範囲では駄目。
周りを巻き込まないように。
裏ボスだけへ。
「全部。」
黒い光が杖の先へ収束していく。
裏ボスも最後の攻撃を放つ。
「ここに――!」
阿部は杖を振り抜いた。
凄まじい光。
音。
衝撃。
そして。
「……。」
静かになった。
阿部はゆっくり顔を上げる。
裏ボスがいた場所には。
もう。
何もいなかった。
「……倒した?」
返事はない。
しばらくして。
ピロリン。
『裏ボスを撃破しました。』
「……。」
阿部はその場へ座り込んだ。
「疲れた……。」
レベルMAX。
自動回復。
チート装備。
それでも。
本当にギリギリだった。
「もう二度と戦いたくない。」
その時。
裏ボスが消えた場所に。
小さな光が見えた。
「あ。」
阿部はゆっくり立ち上がる。
足を引きずりながら近付く。
そこには。
一本の杖が落ちていた。
「……これか。」
魔王が言っていた。
モンスターを人間に変える杖。
阿部は拾い上げる。
『人化の杖を手に入れました。』
「……やっと。」
阿部は杖を胸に抱えた。
「終わった。」
___________
すぐに帰ろうと思った。
でも。
一歩歩いたところで。
「……無理。」
阿部はその場へ座った。
体力を見る。
ほとんど残っていない。
魔力も同じ。
それでも。
少しずつ。
数字が戻っていく。
「自動回復あってよかった……。」
今だけは。
魔王になったことを心の底からありがたいと思った。
阿部は地面へ寝転がる。
空を見る。
青い空。
遠くには森。
その先には。
小さな村。
壊れていない。
「……よかった。」
ちゃんと守れた。
阿部は目を閉じる。
体力が戻るまで。
少し休もう。
人化の杖は。
絶対に離さないように胸元へ抱えて。
手下たちは。
どんな人間になるのだろう。
ドラゴンは。
ゴブリンは。
スライムは。
少しだけ楽しみだった。
『体力 21%』
「……まだまだじゃん。」
阿部は苦笑する。
『体力 22%』
「帰るの時間かかりそう。」
それでも。
急ぐ必要はない。
敵はもういない。
世界のほとんどは平和になった。
阿部は目を閉じたまま。
ゆっくりと傷が消えていくのを待った。
ただレベルを上げたかっただけの賢者は。
いつの間にか。
自分が変えてしまった世界を守るために戦う。
本当の意味での魔王になっていた。
コメント
1件
うわ、この話、めっちゃ良かったです……。最初は「レベル上げだけ」だった阿部が、いつの間にか自分の変えた世界を守る側に回ってるの、すごく好きです。裏ボス戦で「全部守りながら倒す」って選択肢を取ったところ、魔王って肩書きにちゃんと意味が生まれた瞬間でしたね。文のリズムも短くて力強くて、戦いの疲れが伝わってくるようでした。