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「おかえり、有夏。どこ行ってたの?」
「んぁ?」
靴を放り捨てるように脱いで部屋に入る有夏。
手にはコンビニの袋、それから大きな紙袋を持っている。
「それ、どうしたの?」
幾ヶ瀬は目ざとい。
「お菓子のよしの」と書かれた紙袋に過剰に反応したのが分かった。
「もらった、ソコで」
「そこってどこなの? 誰に貰ったの? どういうものなの?」
執拗にも思える問いに、だが有夏は平然としたものだ。
中からビスコの箱を取り出した。
「隣りのクソビッチ。ビスコくれた」
──き、聞き捨てならねぇな。
──クソビッチはオマエだよ、胡桃沢有夏!
「あの女、まさか有夏に色目を使って……!」
幾ヶ瀬が「キイッ」と叫んだ。
──ありえねぇだろ。
──アンタらの情事を毎日のように盗み見てんだよ、こっちは。
──第一、有夏チャンに惚れる要素はねぇ!
ども。2人の隣人です。
しがないフリーターでございます。
普段はベランダから覗いたり壁の穴から覗いたり……ああ、いやいやゴニョゴニョ……。
隣りの2人がイチャついている!ところを愛でているだけの者っす。へっへっ……。
見たまま聞いたままのことを書きしたためているのです。
妄想じゃありません。
たまたま住み着いたアパートの隣りのカプが、それはそれは推せると気付いて、日夜問わず熱視線を送っているのです。
今日はたまたま有夏チャンに会っちゃったんで、そのことを書こうと思います。
有夏チャンに会ったのは、アパートの階段を登り切ったところです。
コンビニ帰りらしく、スイーツの入った小さなビニール袋を提げてました。
「こんにちはぁ」
アタシが挨拶をすると、すごい無表情で会釈をしてくれました。
「あ、待ってください。胡桃沢さん、お菓子お好きですかぁ?」
胡桃沢有夏(クルミザワアリカ)──まったくマンガみてぇな名前だなと思いながらも、抱えていた紙袋を1つ差し出す。
「賞味期限ギリなんですけど良かったら……。バイト先でたくさん貰っちゃって」
実際アタシは紙袋を4つ持っている。
お菓子の卸売り店舗でレジのバイトをしてるんだが、たまに期限切れのやつを貰ったりするんだ。
ラッキー、1人で食ってやれと思っていたのだが、ちょうど良い。
お隣りのよしみだ。
あと、毎日のように壁の穴からノゾキしてる罪滅ぼしっていうか……。
「うん。あり、あり……ありが……」
若干コミュ障気味の有夏チャン。
意外なくらいあっさり受け取ってくれた。
「ビスコのミニパックが大量に入ってるんですけど。なんか懐かしいですよねぇ。今は味の種類も結構多くて。いちご味がおすすめですよっ」
「は?」
「あ、いえ。すみません……。調子に乗ってすみません。生まれてきてごめんなさい。あの、いっぱい入ってるんで。良かったら食べてください」
……チクショウ。めげそうだ。
「あの、お好きでしたらもう一袋どうですかね? お菓子いっぱい食べます?」
有夏チャンは首を横に振った。
何大ウソついてんだ。お菓子大好きだろ、アンタ。
クソ。
この人、絶対目ぇ合わせてくんないな。
そもそも何だコイツは、胡桃沢有夏め。
キラキラしやがって。
肌艶いいな。
さすが毎日アナルセックスに興じてるだけあって、プルップルのウルッウルだな!
事情を知らなきゃあやうく(外見だけで)ホレてしまうところだが、アタシはそんなに甘くない。
そもそも有夏チャン、ニートなのは知ってるけど年はいくつなのよ。
何してる人なのよ。
昼夜問わずの乱れっぷりを頭から締め出して客観的に見てみると、この人は一言で言うと……そう、王子様?
キラキラしてる? イケメン?
線が細くて、髪がサラサラで、目が大きくて、特に黒目が大っきくて何だか吸い込まれそうなんだな。
で、睫毛長くて、肌がきれいで、声が甘くて。
あと何かメッチャ良い匂いすんだな!
何だコレ、少女マンガかっての!
少女マンガから抜け出たリアル王子かっての!
実際口は悪いわ、アソコはユルイわ(ヘンタイメガネがいつも「キツッ」って言ってるから、物理的にユルユルなわけじゃねぇんだろうけどね!)
大好きな「幾ヶ瀬」がいなきゃ若干コミュ障だし。
今だってキレイな顔が強張ってるし。
あと多分有夏チャン、クソニートだよ。
働いてる気配ないもん。
年齢が見た目じゃよく分からないんだけど。20歳前後か……?
いや、もっと若いのかなとか色々想像してみる。
高校生……マサカ!?
でも見えなくもない。
ヤベ。制服着せたらきっと萌えるわ。
おぉ! 白いベスト! もしくは白いセーターを着てくれぃ!
大学生……これはありうる!
どっちにしろヒキコモリだけど。
キャンパスライフ謳歌してないけど。
社会人…てか、何にしても無職だろ!
出かけるったらコンビニくらいじゃん。
家で仕事してる可能性は?
いやいや、あの人ん家ゴミ屋敷じゃん!
ヘンタイメガネん家に入り浸ってお菓子食ってるか、ゲームしてるか、マンガ読んでるか寝てるかセックスしてるか、どれかしかねぇじゃん!
(壁の穴から覗き見て、把握しているアタシも十分ヤバいんだけどな! ハァハァ)