テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
yuka @1週間猫メイド
2,443
コンソメパン
601
ポテチ
1,146
#あべさく
めかぶぷりん
8,323
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
柊が、久世朔哉と出会ったのは、柊が大学生の頃。
当時の柊は、能力を見込まれて研究施設でチームの一員として研究を行っていた。そこで、研究施設に出資している久世家の者が視察に来ていたのが、きっかけだった。
それから、久世が行っている命の霊薬の研究に興味を持ち、久世からの提案に乗って、命の霊薬に関する事柄に手を貸していた。渡辺の誘拐も、その一環だった。
研究対象が一人に絞られたのは、相原衣吹が久世に持って来た話から。
「特務調査局の阿部亮平、ですか」
「そうだ。異能に関する事件を広く扱っている所でね、メンバーはたった九人」
「ずいぶんと少ないですね」
「そう思うだろう? だが、実績は数多い。創設からすでに11年経っていて、警察からの信頼も厚い」
「なるほど、では、調査の方も慎重にいかねばなりませんね」
「そうだ。早い段階で知られるわけにはいかない。目星はついたのだから、今更、焦る必要などないのだよ」
「では、動きますか」
「必要な時に力を貸してくれたらいい。雨霧、衣吹、茉奈、ルイ。それと、琴波。柊には、得られた情報をまとめてデータにしてもらいたい」
「分かりました」
こうして、阿部亮平という人間に対するデータを集めることになった。
小さな事件を持ち込んでは、誰がどう動くのかということを見るのが主だった。
けれどそういう時、決まって阿部は外には出ない。他のメンバーの行動歴や異能に関する情報は集まれど、一向に阿部亮平のものは出てこない。
一年近く探って、外に出るのは任務外の買い物の時かプライベートの時くらいで、その異能を確認することは全くできなかった。
そこで久世が仕込んだのが、服部鈴音という女性。派手に暴れたいという欲求があり、命の霊薬の存在をチラつかせただけですぐに乗り気になった。特務調査局のメンバーが、子どもの依頼も断らないということは、この一年で分かっていたので、衣吹の変容を使って服部鈴音の見た目を小学生に変え、雨霧と茉奈の異能を使って事件を起こさせた。
それでも阿部が表に出てくることはなかったのだが、目黒が阿部に褒められたと喜んでいたことと、渡辺も褒められたがっていたという情報が入った。
「人間関係も重要な情報になりますからね」
柊は、柊の葉が刻印されたタブレットに情報を打ち込んでいく。
水族館では柊と雨霧の二人が、阿部・宮舘・渡辺の動向を遠くから観察していた。
X-CHARGERがメインの巨大水槽のあるエリアを封鎖したという体にして、各フロアの出入り口には簡易魔法陣を設置した。一般客はそこに続く道があることを認識できないようになっているので、柊と雨霧は五階上の手すりから下を覗き込んでいる。
「ふむ。魔法陣というのは便利ですね。展開するだけで視認できなくなるとは。本人は胡散臭いことこの上ありませんが、あのファントムという男、非常に有益なものを所持しているようです」
ブツブツと独り言を呟いている柊に、雨霧は何の感情も宿していない目を向ける。
この柊という研究者は、久世の傍にいるから長い付き合いではあるが、互いに理解し合えてはいないだろう。どちらも感情が表に出るタイプではないし、雨霧は久世の命令以外に興味はなく、柊は研究以外に興味がない。
二人で行動することもあるが、会話は殆ど成立しなかった。
「純水であれば、電気は通らないようですね。電子の方を使う素振りはありません、か。渡辺翔太、宮舘涼太の両名も、阿部亮平を人質にされると動けない様子。その二人を見て、阿部亮平は言葉巧みに誘導して離れさせ、水の支配権を宮館涼太の氷が奪って解放。相手の懐に入って隙をつく、実に良い作戦です。自分に出来ることを各々が担っている。連携も素晴らしい。人間関係と能力の使い方は、データに纏めておきましょう」
X-CHARGERの者達が逃げ出すのと時を同じくして、柊と雨霧は魔法陣を解除し、人ごみに紛れるように水族館を離れた。
続く、Unique Tigersと高宮浩介への催眠は簡単だった。
NEW ERAは元々、SnowManに恨みを持っているのと、リーダーの金髪の男・《的場恵登-まとば けいと-》が白耀の姫と呼ばれている阿部に興味津々だったことから、話を持ち掛けたらすぐに乗っていた。
そしてUnique Tigersは強い異能力者と戦いたがっており、SnowManは相手として打ってつけだった為にNEW ERAと同盟を組むのもすんなりと進んだ。
高宮浩介に至っては、極普通の人間だったので遠くからの目視だけで催眠をかけることができ、ファントムが考えた設定を喋らせることなど造作もなかった。
依頼の整合性を保つために高宮浩介の自宅に侵入しなければならず、その際にUnique Tigersの仲間だと偽って催眠をかけ、仕事が終わるとすぐに柊はその存在を消した。
どういう状況だと阿部が一人になり、その阿部をどうやったら捕らえることができるのかというシミュレーションのようなもの。実際、かなりのデータを得ることに成功はしたが、危険な状況下でも例の不思議な力や第三の異能を確認する事はできなかった。
そして、ファントムが連れ去ってきた阿部亮平と、そこで初めて対峙することとなる。
柊にとって阿部亮平は、未知であり不可思議な存在だった。
思考回路が根本的に柊と違うのか、何をどうとっても会話が噛み合わない。阿部本人は気が合うと言っていたが、柊にはとてもそうは思えなかった。いつも斜め上の回答ばかりをしているが、話している内容自体は理路整然としている。だからこそ、余計に理解に苦しんだ。
気付いたらタブレットを用意していたし、必要以上に痛めつけるファントムにも嫌悪する。その理由が、柊は全くもって分からなかった。
それでも気になったものは止められず、ファントムのところから戻ってからも、個人的に阿部亮平のデータを収集し、考察するのは柊の日課のようなものになっていた。
その頃だ。久世からの命で、特務調査局の内部分裂を図るように言われたのは。
そこで利用したのは、《合わせ鏡》という異能を持った女だった。女に話を持ち掛けたのは雨霧だ。
女は自分の異能を見せつけることを望んでいて、持ち掛けた話にすぐに乗ってきたので、柊の催眠を使うことはなかったのだが、実際に指示を出すのは柊の役目だ。その場その場で、彼女へどうしたらいいかを指示し、様子を伺う。中の様子を見ているのは雨霧で、それを共有していた。
情報を持ち帰り、自分の研究室でデータを見つめる。
「ふむ。これでも揺れませんか。絆というものは、相当強固なようですね。途中は上手くいっていたようなのですが、出てきた時にはもう迷いはなかったように思います。つまり、中で誰かが立て直したということ。深澤辰哉、渡辺翔太、ラウール、目黒蓮、阿部亮平。やはり引っかかるのは、阿部亮平ですか。しかし、合わせ鏡を説得したのは目黒蓮。彼もまた、よくメンバーを見ている。そして、的確な言葉を伝えることもできる……中からは難しいですね。では、その目黒蓮を中心として見てみましょうか。中ではなく、外でその絆を見させていただきましょう。確か……ああ、いましたね。東海林佑大。目黒蓮に強い恨みを抱いている。人的被害を出さぬように調整をかけてから、仕込みましょう」
そうして、東海林に街を破壊しながら特務調査局に向かわせ、全員を外へ出すことにも成功し、仲間がそれぞれピンチになった時の阿部の行動と、仲間が狙われている状況でのそれぞれの対処の仕方を遠くから観察した。
そこで見えたものは、柊には到底理解できないものだった。
再び、情報を持ち帰って研究室でデータを見つめる。
「……何故、あの状況をひっくり返されたのでしょう。作戦は上手くいっていました。阿部亮平も出てきて、分断され、仲間も動けない状況になり、目黒蓮にも焦燥感は見えました。けれど、阿部亮平と話した直後にはもう、そのような感情はなくなっていた……何を話したのでしょう。それに、東海林を倒した際の目黒蓮のあの圧倒的な力。冷静に対処できるような人物ではなかった筈なのですが……ここも修正しておきましょう。やはり、人間はデータのままというわけにはいきませんね。阿部亮平に直接会って、そこは理解しました」
そう言って、柊はタブレットを操作して、また一点を見つめる。
「今回も使いませんでしたね。周到で、用心深い。大烏に隠れている時に何かしていたのかと思ったのですが、出てきてもビルには何も変化はありませんでしたし……外側から観察していても難しいでしょうか」
「……では、他の全ての異能を封じてみよう」
「久世。来ていたのですね」
「進捗はどうかと思ってね。仲間が命の危険に晒された時、他の仲間の異能も自身の異能も封じられれば、使うでしょう」
「……命まで奪うつもりですか?」
「必要であれば」
「……そこまで加担するつもりはありませんよ」
「構わない。この件に関して、柊は分析だけしてくれれば良い」
「分かりました」
立ち去る久世を見送り、柊は息をついた。
「そろそろ潮時ですかね。久世の方針がずれていると、そう思い始めたのは、やはり阿部亮平の影響でしょうか。見方が変わったように思うのは、気のせいではないのでしょうね。久世のやり方に賛同はできませんが、引き受けた仕事は最後までやりますよ。途中で投げ出すことはできませんからね。仕事の契約は守りますよ……その範疇に収まらないものについては、保証できかねますが」
言いながら柊は、ブルーグレーのタブレットを机に置いた。
それでも柊の仕事は終わらない。
今度は、命冠の環に提供する命の霊薬を作らなくてはならなかった。
「少量でも効果があればいいのですから、催眠と、フェデレートの想像増大のマテリアを流しましょう。水よりも、経口補水液と生理食塩水にしましょうか。無味よりも信ぴょう性が増すでしょうし。教祖を信じ込ませるためにも、教祖に飲ませる分は濃いめにしておきますか。実感すれば、その分、自身で箔を付けてくれるでしょうから。あとは、紅歪から渡してもらえれば準備は完了ですね」
教祖に飲ませる用と、生理食塩水と経口補水液に混ぜ込んだものをそれぞれワイン樽で作った。それを雨霧に運ばせ、実際に作るのは教団に任せる。
そのまま結果を待つだけだったのだが、思わぬ話が舞い込んできた。
特務調査局の岩本、佐久間、渡辺の三人が命の霊薬を飲んだというのだ。それを、久世が知ってしまった。
「これは使わない手はないね。実際にCLOSEの封印を解く時に、特務調査局の事務所の中に入れるようにしておこう。柊、頃合いを見て、事務所にいる三人の内の一人に電話をかけてくれ。催眠が入っているから、警戒心が薄れているだろう。警察官だと信じ込ませ、事務所内部の情報を。衣吹の変容で侵入させる際に、より本人に見えるように事前に中のことを把握しておくことが重要だ」
「……分かりました」
後日送られてきた「最低」の二文字。
柊は暫し、スマホの画面を見つめていた。
「……恐らく、気付いたのでしょうね。これまで何をしていたのか……当然の反応ですね。言い訳などしません。阿部亮平を調査するために行った数々のことを、正当化するつもりなどありませんから……この言葉は、心に刻んでおきましょう」
そして、スマホの画面を再び見つめるのだった。