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コメント
1件
書き方上手すぎ!!! めちゃ尊敬( * ॑꒳ ॑* )✨ しかも面白かった! ハート50まで押したよ☆((
春の風は、まだほんのり冷たくて。
だけど、空はもうすっかり春の色をしていた。
丘の上の小さな広場に、パチパチと薪のはぜる音が響く。
「……火、ついたよー」
そう言って、ひとつ大きなあくびをしたのは、小鳥遊結月。
彼女の前には、即席のロケットストーブ。
その上で、鉄のフライパンがじゅうじゅうと音を立てている。
じっくり焼かれるベーコン、その香りが風に乗って漂う。
「うわ〜……めっちゃいい匂い……! お腹すいた〜!」
荷物を抱えて坂を登ってきた若葉梨々花が、ぺたんと腰を下ろす。
「せめて火を手伝ってから言えよ……」
ため息まじりに呟いたのは、東雲澪。
だがその視線は、フライパンの中から離れない。
「写真……撮っていい?」
カメラを構えながら静かに近づく三好静流。
その手元には、フィルムの一眼レフ。空とごはんと、友だちの笑顔がフレームに収まる。
空の下、煙の匂いと焼きたての香ばしい音。
学校でも家でもない、
ちょっとだけ特別な「食べる場所」。
「今日は――ベーコンエッグサンドと、あったかスープです」
にこっと笑った結月の声に、みんなの顔がふわっとほころんだ。
その日、正式に「野外料理研究部」が発足した。
目標はひとつ。
「空の下で、美味しいごはんを食べること!」
ちょっと不便で、すごく贅沢。
そんな日々が、はじまりを告げた。