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第二章:見知らぬ村と、冷たい目
旅は、思っていたよりも過酷だった。森を抜け、山を越え、川を渡って……ふたりは、はじめて“外の世界”を知ることになった。
「ひ、人が……こんなにたくさん……」
ヒイロが小さくつぶやいた声は、街の喧騒にすぐ飲まれていった。 はじめてたどり着いた人間の村。けれど、そこにはどこか張りつめた空気が漂っていた。
ルナの姿が、村人の目に映った瞬間だった。
「……魔女、だ……!」
誰かがそう言った。空気が、一気に冷たくなる。
次の瞬間、まるで警報のように、あちこちから怒号が飛び交った。
「魔女が来たぞ!」 「追い出せ! この村から追い出せ!」 「また誰か呪われるぞ!」 「あいつのせいで、去年の干ばつが──!」
「ま、待ってよ……! ボクはなにも……!」
ルナの声は震えていた。けれど誰も耳を貸さなかった。 そして次々と物を投げつける。村人が投げた石が、ルナにあたり血が滲む。
「ぐあっ…!?」
そこにヒイロが盾になるように立ちはだかる。
「や、やめてっ……! この子は、そんな……悪い魔女じゃない……っ!」
「黙れ! 魔女に味方するやつなんて信用できるか!」 「ガキのくせに魔女に取り込まれたんだ!」
怒りと恐怖が入り混じった声が、ヒイロの心に突き刺さる。 手を引かれて引きずられそうになったヒイロの腕を、ルナが必死に掴んだ。
「もう、いいよヒイロ……行こう」
結局、ふたりは村に泊まることもできず、日が暮れる前に村の外れへ追いやられた。
夜の焚き火の前で、ルナは静かにうつむいていた。 着ていたローブは泥にまみれ、当たった石の傷が赤くにじんでいる。
「……ヒイロ、ボク……なにかしたのかな」
「え……?」
「ボクは……ただ話し掛けようとしただけで…なにもしてないのに…魔女だから?」
ヒイロは言葉に詰まった。 言い返したかった。でも、あの村で見た光景が、否定を許さなかった。
「……でも、ルナは……やさしい魔女、だよ。僕、知ってるから……」
ヒイロの声は弱々しかった。 それでも、ルナはその言葉に、少しだけ目を細めた。
「……ありがと」
火の粉が、夜の空へと舞っていく。 その先に待つ“塔”の存在が、ふたりの未来を変えていくことを、まだ誰も知らなかった。