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雫 -SIZUKU- ~星霜夢幻ーー“Emperor the Requiem”~

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雫 -SIZUKU- ~星霜夢幻ーー“Emperor the Requiem”~

72 - 第72話 破 終幕 そして……③ 決着の刻

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2025年07月14日

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************



そんな刹那の思考の中、ユキはもはや受け止める限界に達していた。



“――駄目だ! 意識が飛ぶ……”



「いや、まだだ!」



薄れゆく意識の中、かつてを思い起こし奮起する。



“いつか俺達を越えてみせな”



かつてシグレ自身が言った言葉の意味を。



“――だからこそ私は、アナタを越えていく!”



「うおあぁぁぁぁぁ!!」



絶対零度最大解放。全ての力を出し尽くし、ユキは受け止める水龍達を押し返していく。



「ばっ……馬鹿な!?」



シグレは見た。決して滅する事の無い、自らの血液で固めた緋色の水龍達が、多数に分離し崩れ散っていくのを。



お互いの最終技のぶつかり合いは、僅かにユキが上回った。そして勝負を決めようと、彼はシグレへと向かっていく。



「ちぃ!!」



それを迎撃しようと、刀を振りかぶるシグレの身体に異変が起きる。



“――なっ! 身体が動かない……だと?”



「これは……氷結の檻!!」



シグレは目を見開く。自身のその身体には、絡みつく様な氷に囚われていたのだから。



“無氷 ~氷結の檻 フリーズ ジェイル”



“星霜剣最終極死霜閃ーー無氷零月”



「これで終わりですーーシグレぇぇぇ!!」



凍結して動けないシグレに対し、既に彼の間合いへ浸入していたユキは、絶対零度を集約した居合いを抜き放っていた。



“氷結の檻で身体の動きを止めた今の状態なら、無氷零月は必ず決まるーー”



この死闘に決着が訪れる事を、誰もがそう思っていた。



「俺をーー舐めるなぁぁぁ!!」



勝敗が決まる瞬間、その刹那の出来事。



シグレは己を縛りつけていた氷の檻を、力ずくで無理矢理引き剥がし、村雨を振り上げる。



「そ、そんな……」



見守るアミの瞳が絶望に覆われていく。ユキの刃は届かず、逆に弾かれたその衝撃で刀は虚しく宙を舞った。



全ての時間が止まったかの様に、ゆっくりと弧を描き墜ちていく。



「もう刀を強く握り締める力も、残っていなかったか……」



シグレは降り上げた刀を、そのままユキへ向けて降り下ろす。無理矢理引き剥がした為、その腕は毛細血管が破裂し、血みどろになっているのもお構い無く。



「これで終わりだユキヤぁぁぁ!!」



丸腰では防ぎ様が無い。シグレが刀を降り下ろす勢い。その刹那の瞬間。



“ーーっ!?”



シグレは確かに見た。彼の右手が蒼白の輝きを纏っていた事にーー



“リュートゼロ・ゴッドクラッシャー・ハンドレット ~絶対零度:終焉雪 蒼掌極煌”



「ぐあっ!! なっ……何だと?」



降り下ろしたシグレの刃は届かず、村雨はゆっくりと地に墜ちる。



シグレの勢いを利用したユキの、右手による手刀が彼の腹部を貫いていた。そして其処からは蒼白い冷気で凍りつき、浸食していくそれは通称ーー“神殺し”の掌。



「流石に内部からの絶対零度は、相殺しようが無いでしょう? 今度こそ……終わりです」



決着の刻。



蒼白の冷気が吹雪となって二人を包み込むかの様に、静かに冷たく光り輝いていた。



「お前も一緒に死ぬ気か? 絶対零度の範囲内に居る以上、耐性が有っても只では済まんだろう?」



全ての物質の原子運動が停止し、分子結合が崩壊する氷点の最低温度、絶対零度の前では、例えそれを行使するユキであっても、生身ではその温度には耐えられない。その為、絶対零度を行使する際には、他の物質へ依代にするか、直接浴びぬ様外部に放出する必要がある。



事実、凍りついていくシグレの腹部から、ユキにもそれが浸食しつつあった。それでも彼は決して退こうとはしない。



「ククク、そうまでして俺を殺したいか? 憎いか俺が!?」



シグレは退かないユキを自虐的に笑う。だか、引き剥がそうといった抵抗をしようとはしなかった。



まるで、この刻を受け入れるかの様に。



「ええ、殺したいですよ。アナタは大量殺戮者で救い様も無い極悪人だ」



ユキは腹部から手を抜く事無く、冷徹に言い放った。



それに対してシグレは「いいねぇ、最高の誉め言葉だ」と笑う。



シグレがしてきた事は、決して赦される事では無い。それは自身も重々承知。懺悔や呵責の気持ちも無い。だから笑った。悪は悪として生き、そして悪のまま死ぬのみ。



「だけど……」



ユキは同情する訳でも無く、想いを搾り出す様に呟く。



「私にとってはたった一人の……最後の仲間だった」



それは決別への餞ーー



「アナタは悪だ、誰よりも。でもそれは私も同じ。だからこそ私達は集った。誰よりも強く、誰よりも信頼出来た」



ユキの想い。同じ境遇を生きた特異点だからこそ理解出来る、常人の理解を越えた確かな絆。



「ユキヤ、お前……」



お互いが凍りついていく、その絶対零度の空間の中でユキはその深い銀色の、でもとても穏やか瞳でシグレを見据えて。



「だからこそ、アナタだけは私の手で殺す……」



その表情は同情でも憎悪でも無い、憂いに帯びていた。



「想像出来ないんですよ、アナタが私以外に倒される姿なんて。アナタは私の中で、強いまま……」



「ユキ……」



蒼白い吹雪が二人を包み込む中、アミはユキの後ろ姿がとてもーーそう、とても哀しそうに見えた。



シグレの両手がガクリと墜ちる。その表情は笑みを浮かべていたが、以前の冷笑とは違い、それは憑き物が取れた様な憂いを帯びた微笑だった。



「アナタの事は絶対許せないし、大嫌いだけど……」



冷たく輝く蒼白い光が、その存在を消して逝くかの様に二人の、そして最後の特異点が墜つ。



“闘いの中でしか生きられない俺達にとって、真に正しいものが有るとするなら、それは強さだけだーー”



ユキはかつてシグレが自身に語った信念を、思いの丈反芻する。



「その揺るぎないまでの信念と強さだけは……好きだったーー」

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