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車を降りた瞬間、
空気が変わった。
音が、少ない。
街のざわめきは門の外に置き去りにされて、
ここには、整えられた静けさだけが残っていた。
目の前にそびえるのは、
鈴蘭学院の正門。
白い石造りで、
派手ではないのに、
簡単には越えられない雰囲気があった。
門の前には、
同じような年頃の少女たちと、
その保護者が集まっている。
みんな、
言葉を選ぶように話していた。
笑い声はある。
でも、大きくはならない。
まどかは、
自分の服を見下ろした。
派手ではない。
でも、
この場に「正解」かどうかは、
分からなかった。
門が、静かに開く。
合図も、アナウンスもない。
それなのに、
全員が一斉に、前に進んだ。
まどかも、
流れに逆らわず、足を出す。
門をくぐった瞬間、
背中で音が途切れた。
外の世界が、
完全に切り離された感じ。
振り返りたい衝動を、
まどかはこらえた。
正面に広がる中庭。
丁寧に手入れされた芝生。
等間隔に植えられた木々。
風に揺れる、白い鈴蘭の花。
きれいだった。
でも、
どこを見ても、
「自由に歩いていい場所」が
見当たらなかった。
「……すごいね」
思わず、声が漏れる。
隣にいた母が、
小さくうなずいた。
「ここが、
さやの学校なんだね」
その一言で、
現実が胸に落ちた。
遠くに、
制服姿の在校生が見えた。
背筋がまっすぐで、
歩幅が揃っている。
誰かが指示しているわけじゃない。
それなのに、
乱れがない。
まどかは、
なぜか喉が乾いた。
足元で、
小さな鈴の音がした気がした。
もちろん、
そんな音は鳴っていない。
それでも、
ここに足を踏み入れたことで、
何かが始まってしまった。
そんな予感だけは、
はっきりしていた。
案内役の教員が、
穏やかな声で言う。
「それでは、
説明会会場へご案内いたします」
まどかは、
一度だけ深呼吸をして、
前を向いた。
もう、門の外には戻れない。
少なくとも、
今は。