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その日の夜。湯船が傷に滲みるため、みんなよりも早めに大浴場から出た。軽くドライヤーを当てた黒髪は、毛先だけまだ少し濡れている。
和葉の告白。潤の告白。そして、歩くんの好きな人。
それに……実里くんにも告白をされている。もうどうすればいいのか頭の中がごちゃごちゃだ。こんな時、武蔵先輩なら空気読まずに笑わせてくれるのかな。
部屋に戻り、まったりとしているとスマホに歩くんからメッセージが届いた。
「今、時間ある?」
こんな夜にどうしたんだろう。大丈夫だよと送り返すと、すぐにメッセージがくる。
「散歩行かないか?」
「行く!」と返して、こっそりと外に出た。外に出ると、昼間の暑さは和らいでいて、夜風が心地いい。照りつけるような暑さが嘘みたいだった。
「悪い、お待たせ」
駆け寄ってきた歩くんが「来てくれてありがと」と言ってはにかむと、折り畳まれた柔らかい何かを私に手渡してきた。
「これ、少し風あるから羽織るか?」
広げてみると濃紺の半纏だった。浴衣は薄手だし風が少しあるから、散歩していたら肌寒いかもしれない。
「ありがとう」
歩くんにお礼を言って、早速半纏を羽織ってみる。
ふわりと温かい布に包まれて、少し冷たい夜風が遮断された。歩くんの心遣いが嬉しい。
「いこっか」
私は小さく頷いて、歩くんの半歩後ろを歩いていく。きっとこの道は、海岸へ向かおうとしているんだろうな。
「ましろ、和葉が言ってたこと……嬉しかったか?」
半歩先を歩き、顔は反対側に向いている歩くん。表情が見えなくて、歩くんがどうしてそんなことを聞いているのかわからない。
次第に波の音が大きくなっていく。
「気持ちは……嬉しかったよ」
夜の暗さが私たちの間に流れる空気を飲み込んでいく。
普段は見えるはずなのに今は歩くんがどんな顔をして聞いているのか想像すらつかない。
「そっか……」
歩くんの声のトーンが落ちたように聞こえた。もしかしたら、王子役を決めたって思ったのかな。
「私、歩くんに謝らないといけないことがあるの」
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