「イスティさま、わらわは?」
「う~ん……フィーサは――」
どういうテストをされるのか、それが分かってから動いてもらうか。
「そこの者。名は?」
「アック・イスティだ。……それで、実力をどう見せればいいんだ?」
「目の前に見えている巨木を燃やしてみるがいい!」
「……巨木を? レザンスのシンボルのような木を燃やして平気なのか?」
「当たらぬ故、心配無用。もし当たったとて傷の一つもつけられない」
老齢の魔術師が巨木のすぐそばに立ち、他の魔術師たちは少し離れた所から見ている。どうやら完全に見くびられているようだな。
「――エクスプロジオン!」
爆発魔法は火力が強く、おれの魔力を存分に消耗して形と成すものだ。動かない標的である以上、威力は凄まじいもの。両手を広げ、巨木に向けて発動させた。しかし何故か巨木の手前で威力が落ち、魔法が消えてしまった。魔術師がその場を一歩も動いていないのにだ。
「……どうした? それがお前の実力か?」
何か仕掛けがあるとは思えないが違和感を感じる。
「イスティさま。わらわを使ってなの! わらわを引き抜いたら、すぐに炎をエンチャントしてくれれば!」
鞘に収まっているフィーサが背中越しからささやく。フィーサは魔法効果をエンチャント《付与》出来る剣だが。真っ先に強い気配に気付いてもいるし、おれが気付かない異変に気付いているなら試す価値はある。
「ファイアボールを付与だ!」
フィーサの剣全体に炎がほとばしる。彼女を握りしめながら、おれは巨木に向かって一直線に斬りかかった。すると燃え盛る炎は巨木にではなく、辺りの空間を巻き込み轟音とともに崩れ出した。
何だこれ……?
建ち並ぶ家々は焼け崩れた姿を晒し、足元からは焦げついた土の地面がむき出しに。複数いたはずの老齢魔術師の姿もたった一人しか見えない。
「お見事じゃ! 我の幻影魔法をいとも容易く破るとは」
幻影魔法――ということは、複数の魔術師もこの家々も全て幻か。しかし巨木だけは少し焦げたようにも見えている。
「幻を見せて攻撃をけしかけたのか?」
「無礼をお詫びする。我はレザンス・リブレイ。現魔法ギルドのマスターである」
「へ? リブレイ……? レザンスって――」
この人が本当のギルドマスター?
レザンスの名を冠している――ということは国王なのでは。
「バヴァルは我の弟子であり、ここを焼け尽くした魔女でもある。先程まで見えていた家々は、かつてあった家であるが全てバヴァルによって焼かれてしまった。巨木も焦げがついてしまったが……」
「つまり、ここが魔法ギルドの中心地?」
「そういうことだ。手前の港など魔法の気配すら無い。ここが魔法国と知る者は、もはやいないだろう」
レザンスはラクルと同規模の港町というだけで、魔法の国というわけじゃないのか。
「バヴァルは叛逆《ほんぎゃく》を?」
「才能があり後継者育成をしていたが、弟子が手にした神殿の書物を手に入れてからおかしくなっていった。その結果がこのざまだ」
「それだけでここを燃やすなんて……」
「神殿の書物、つまり魔導書にはスキルを覚醒させることが書かれていた。力を持たせれば危険だと判断し、我は書物を人知れぬ港の小屋に隠した」
おれが見せられたあの魔導書だろうか。ギルドだと案内されて入ったのがあの小屋だとすると、転送先としては辻褄が合う。
「隠した……?」
「そのことに怒り、ここを燃やされたというわけだ」
どういうつもりか今となっては分からないが、おれを最後の弟子と認めて与えたことになる。魔導書とスキルを与えてどうするつもりだったのか。
「バヴァル自身の覚醒は?」
「書物を見つけ出された時に触れていたが覚醒はしなかったようだ。弟子を覚醒させようと企んでいたが、弟子には逃げられ年月だけが過ぎ去った」
「じゃあおれが……」
「そうだ。お前が最後の弟子ということになる。覚醒を果たしたのだろう?」
「…………」
当初はバヴァル自身が覚醒するつもりだったはず。だが叶わず、それをおれに与えて成功した。偶然にしては出来過ぎだ。
「それが何かまでは問わぬ。だがバヴァルの教えを引き継いだ弟子がここに来たのは、何かの凶兆。何か良くないことが起きるかもしれぬ」
「おれは――」
「悪いことを企む者ではないと知った。その宝剣は、そういう者に扱えるモノではないからな」
よく分からないがフィーサのおかげのようだ。ギルドもろとも町を燃やすなんて、とんでもない魔女だったわけか。
「それで、おれはどうすれば?」
「逃げた弟子が生きていれば良からぬことをするはずだ。バヴァルの意志を遂げるか、あるいは……」
「邪魔を?」
そうやって敵を増やしていくことになるわけか。乗り掛かった舟というか、関わってしまった以上はやるしかないな。
「……ともかく、バヴァルの弟子だった女を探して阻止を願う」
「関わってしまった以上は努力しますよ」
「うむ……全て片付けたならば、お前はレザンスのギルドマスターとなれ!」
「え、おれが!?」
「待っているぞ」
姿の見えないギルドマスターと言われてもな。自由気ままに生きるはずが、何でこんなことに。
「イスティさま。ギルドマスターになるなの?」
「いや。……ところで、シーニャは?」
「知らないなの。じっとしていることがない虎娘のことだから、港に行ったかもなの」
「港にか」
シーニャには退屈させてしまった。
「もしかしたらドワーフ小娘の所に行っているかもなの。イスティさま、行くなの!」
「それしかないか」
バヴァルにささやかれてついて行ったばかりにこんなことになるとは。こうなれば逃げた弟子を探すしかないのか。
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