コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
力の大救出劇から2週間後のある夕刻・・・
その日は世界中のブラックロックファンが息を呑んでそれぞれの端末の画面を見つめていた
突然発表された
『ブラックロック世界同時ライブ会見』
の告知は、まるで雷鳴のようにSNSを駆け巡り、ファンを動揺させた
日本の渋谷スクランブル交差点では、若者たちがスマートフォンを手に足を止め、韓国の小さな部屋では学生がパソコンに釘付けになり、ブラジルのとあるリビングでは、タブレットに映る映像を家族が見つめていた
ニューヨークの地下鉄では帰宅中のビジネスマンがイヤホンを耳に押し込み、イギリスのカフェテラスや中国の賑やかな屋台でも、誰もが自分の端末を手に、同じ瞬間を共有していた
ブラックロックのライブ配信は、国境も時差も超えて、世界を一つに繋いでいた
配信会場は、日本のシンプルで無機質な白い部屋で、そこに現れたブラックロックのメンバー
―力、誠、海斗、拓哉―
は、全員が黒一色のスーツに身を包み、海斗と誠においては髪まで黒く染め上げていた
いつも派手なステージ衣装や化粧で彩られる彼らが、まるで別人のような厳粛な姿で現れた事に、視聴者達は一瞬戸惑った
しかし、その静かな佇まいが、今日の配信が、ただ事ではないことを物語っていた
ひな壇の中央に座る力と誠、その後ろに一段高く拓哉と海斗・・・カメラの向こうで彼らの目は揺るぎない決意を宿していた、配信が始まると、画面の向こうで力の声が静かに響いた
『突然・・・こんな形でライブ配信をさせて頂く事で、大勢のファンの皆様を驚かせてしまった事を深くお詫びいたします―』
力の声は落ち着いていた、世界中のファンが固唾を呑んで耳を傾ける中、その言葉には重みが宿っていた
『ですが・・・僕達、ブラックロックが地上波の記者会見や・・・会社を通してテレビで皆さんに重要な事をお伝えしようとしたら・・・記者会見などで仕込まれた記者の質問に委縮して答えられなくなったり・・・語った言葉を都合の良い様に切り取られて誤放送されたりする危険があります、このような形式を取らせて頂いたのは間違った情報の拡散を防ぐためです』
力は続けた
『今回、僕達だけでこのような配信をさせて頂くのは、今現在、僕達に起こっている事・・・そしてそれを僕達がどう受け止めて、これからどうして行くかを・・・正直に皆さんにお伝えするべきだと思ったからです・・・』
・:.。.・:.。.
日本の小さな町にあるサラベーカリーの二階では、沙羅がリビングのソファーに座り、祈る様に手を組んでテレビ画面を見つめていた
その隣には陽子、真由美、健一が集まって誰もが言葉を発さず、ただ配信画面に映る力達メンバーの言葉に耳を傾けていた
ネットテレビの画面越しに映る力の顔は、いつもステージで見せる自信に満ちた笑顔とは異なり、どこか疲れを帯びながらも、強い意志に支えられていた
沙羅の手は祈るように固く握りしめられて、時折震えていた、彼女の胸中には力の決断とこれから語られる真実への不安が渦巻いていた
次に誠が口を開いた、彼の髪は普段のふわっとした可愛いらしい茶色のプードルヘアではなく、真っ黒に染められ、化粧も施されていない
背景の白い壁が誠の真剣な表情を一層際立たせていた、誠の目は、まるで過去と向き合う覚悟を静かに語っているようだった
『最初に・・・僕が・・・16歳からやってきたこと・・・見て来たことをお話します・・・』
誠の声は少し震えていたが、その一言一言には重い決意が込められていた。世界中のファンが、スマートフォンやタブレットやpcの画面越しに彼の言葉に引き込まれていく
『僕は・・・あまりしゃべるのが得意じゃありません・・・ですから・・・途中で言葉が詰まったり・・・変な言葉になっていたらごめんなさい・・・でも・・・全て・・・全て正直にお話します・・・あの時何があったのか・・・そして僕がブラックロックのメンバーになるために誰に何を言われて・・・どう行動してきたのか・・・』
誠は一瞬言葉を切り、深く息を吸い込んだ、画面の向こうで彼の目が一層鋭さを増した
『僕が過去に犯してきた罪と向き合って・・・どう償っていくかを、メンバーの励ましのおかげで、これからどう生きていきたいのか・・・それを・・・全てみなさんの前で正直にお話しすることから始めようと思いました・・・僕は芸能界の上層部の人や財政界VIP達のSEXドールとして・・・16歳から性接待をやらされていました・・・全員・・・相手の名前を言えます・・・』
画面が一瞬静寂に包まれた、世界中のファンが誠の言葉を咀嚼するように息を止めた
イギリスのカフェでは、若者が飲んでいたコーヒーを吹き出し、ニューヨークの地下鉄では目を剥いた乗客がイヤホンから漏れる誠の声に耳を澄ませた
渋谷のスクランブル交差点では若い女の子達がハッと互いに顔を見合わせて配信の行方を見守った
誠が再び口を開いた
『闇は・・・真実の前では無力です・・・こうしていきなり皆さんに配信でお伝えする意味は・・・僕が経験してきたことを隠ぺいされたり、記者会見などで真実を捻じ曲げられたくないからです・・・嘘偽りの無い真実を日の元に晒し・・・正しい裁きを受ける事こそ・・・闇を葬り去る唯一の方法だと思うからです』
その言葉はまるで世界中に響き渡る宣言だった
力、誠、海斗、拓哉・・・ブラックロックのメンバーは、このライブ配信を通じて、プロデューサー・ジョンハンの悪事を暴き、彼らが今までやっていた悪行の数々、それに対する自分達のこれからの決意を、ありのままに世界に伝える覚悟を固めていた
そして力がもう八年も結婚を待たせている婚約者がいること
二人の間には子供がいて、デビュー当初から結婚を反対されていたプロデューサーのジョンハンに、結婚できないならブラックロックを辞めると決意表明をした所、彼はスタンガンを浴びせられ、表向きは影武者を立てられ、力本人は薬を打たれて闇の人身売買オークションで売られそうになった事を告白したくだりでは・・・
沙羅はもう嗚咽を漏らし、泣きながら配信を見ていた
サラベーカリーのリビングでは、陽子が地団太を踏んで怒り、真由美も眉をしかめて静かに佇み、健一は指先が白くなるほど拳を握りしめ、その姿勢は静かだが怒り心頭の様だった
世界中のファンが、ブラックロックの次の言葉を待っていた、この配信は、ただの会見ではなく、彼らの魂の叫びだった、次に拓哉が白いファイルを掲げて言った
『誠や力の証言の元・・・ここに闇のプロデューサージョンハンが開催していた「人身売買パーティ」の参加者のリストを作成しました、もしこの後、俺達の誰かが危害を加えられたり、命を狙われたりしたら・・・自然とこのリストはアメリカの【NSC】(※国家安全保障議会)に提出され、全世界に公開されることになります』
この配信を見て、沙羅と真由美・・・陽子と健一全員がお互いを見据えて、すべて承知の上でコクン・・・と頷いた
力達の芸能界や、財政界に蔓延っている闇の勢力に対し、「闇には絶対屈しない」と言う彼らの新たな戦いが今、静かに始まっていた
.
・:.。.・:.。.
衝撃の力達の「暴露配信」は全世界中のファンを震撼させた
まず配信後に力と誠のファンの若い女の子が何人も卒倒し、救急車で病院に搬送されるという社会現象が世界各地で起こった
人々がショックから立ち直った次は、怒涛の怒りの抗議が始まった
連日ファイブ社ビルの前で抗議集団が現れ、それぞれに掲げるプラカードには『誠が可哀想』『芸能界の上納システム反対』『恥を知れ!』などの抗議名文が掲げられた
その抗議運動は次第に大きくなり、デモ活動までに発展し
そしてとうとう、プロデューサのジョンハンは刑法第226条、性的人身売買罪、組織犯罪共謀罪、不正な利益を隠すための売春斡旋資金洗浄罪、さらにここに未成年者の性的強制労働罪や殺人容疑がかかり、第一級犯罪者として35年の罪状となり、生涯に渉る判決が始まろうとしていた
韓国ニュースのライブ放送で手錠を掛けられたジョンハンが、数百のカメラのフラッシュを浴びて、真っ白になりながら、パトカーで連行されて行く映像が世界中に配信された
ずっと指名手配で逃げていたイジュンにおいては、愛人の「ミニスカアイドルチェヨン」のアパートの押し入れに隠れている所を逮捕され、彼らの逮捕は、音楽業界に潜む人身売買の闇を暴く契機となった
そしてインターネット上は連日この問題で議論をする人々が後をたたなかった
世界中がこの問題に興味・関心を抱き、SNSではこの事件を取り上げたニュース投稿に何百万件ものコメントが溢れていた
・:.。.
―誠は断っていたら殺されていたかもしれない―
―誠は当時は未成年だった―
―悪いのはそういう権力で若い才能を食い物にしていた芸能界の上納システムじゃないか―
―謎の死を遂げた芸能人はこれに関与してたのか?―
―ショック―
―誠はゲイなの?―
―今の芸能界が腐っているから才能ある若者が潰れるんだ―
―やっぱり力は偽物だった―
―あの日本の芸能人もリストに入っているらしいぞ―
―リストは公開されるべきだ―
―○○政党の○○議員もだって―
―リストを公開しろ!―
―力も八年も待たせるなんてどうかしている―
―彼女は力を助けに韓国まで行ったらしいぞ―
―力の婚約者こそ内助の功だ―
―力!男らしく結婚してやれ―
―彼女を幸せにしてやれ、力―
―命をかけて闇を暴いたブラックロックこそ光だ―
―これからもブラックロックを応援する―
・:.。.・:.。.
・:.。.・