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それから数ヶ月が経ち
「ファイブ上層部」と力達が何度も話し合った結果、なんとブラックロックが日本で活動するためだけに新しく設立された、芸能会社「ファイブJapan」のCEOが日本人になり
「透明性」をモットーに全面的に日本でのブラックロックの音楽活動を支援すると宣言した
今やブラックロックのファンクラブ数は世界一、そして力達はこのまま日本で以前よりも自由に、精力的に音楽活動が出来るようになった
さらにすごいことに、力と沙羅の物語はファンの間で「ラブソングよりロマンティックな現実」と瞬く間に広がり、伝説になった
そしてその半年後、世界に公開されたNetflixドラマ
『スーパースターの秘密の隠し子』
は、まさに力と沙羅の物語で、そのドラマのOST(※オリジナルサウンドトラック)が力の書きおろし10曲で大ヒットを飛ばした
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~Making-of~スーパースターの秘密の隠し子〜【役者インタビュー集・鈴木沙羅役・大松奈々さん】
『一番難しかったシーンは・・・(沙羅)が(力)のみぞおちにアッパー・カットをお見舞いするシーンでした・・・私は人を殴ったことがなかったので、役作りの一環で、笹山力さんの奥様の沙羅さんが実際に通っていた、ボクシングエクササイズジムに1ヶ月通いました、この経験は私の女優人生でとても意味のある経験になりました』
画面の向こうで可愛い顔の女優が微笑んで、沙羅の役どころの苦労話を熱心に語る、彼女はこの映画で最優秀女優賞にノミネートされている
【役者インタビュー集・笹山力役・斉藤健さん】
『初めて台本を頂いた時から、(力)が8年ぶりの再会で(沙羅)にみぞおちを殴られるシーンは、このドラマで最も重要なシーンになるだろうと思いました。視聴者の誰もが不義理をした力にフラストレーションを溜めているので、ここで奈々さんに思いっきり殴ってもらうことで、カタルシスが生まれます。実際に女優の奈々さんと監督さんと相談して何回もこのシーンを撮り直したので、僕のみぞおちは暫くは内出血だらけになりました、まさに体当たりの作品でした』
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力の家のリビングは、まるで小さなライブハウスと化したかのように賑やかだった、大きなソファに身を沈めたブラックロックのメンバー達と、陽子、真由美、健一、音々がテレビ画面に映るドラマメイキングのインタビユー集を観て、誰もが腹を抱えて笑っていた
テーブルの上にはポップコーンやジュースの缶が散乱し、まるで学生時代の放課後のような無邪気な空気が漂っている
陽子がソファの背もたれに寄りかかり、くすくす笑いながらポップコーンを口に放り込む、隣の真由美は、「やばい、これ最高!」と膝を叩いて笑い、健一に至っては笑いすぎて目尻に涙を溜めて肩を震わせていた
アハハ「おじいちゃん泣いてるーー」
「これは可笑しくて泣いてるんだよ」
と、からかう音々に健一は必死に弁解しつつ、ティッシュで目を拭う
その横で、ジフンはあんまり笑っちゃ失礼だと自分を抑えようとするも、口元がクスクスと震え、ついには堪えきれずに吹き出した
ギャハハハッ「いや、待って、待って!あのNGシーン、もう一回巻き戻してくれ!」
「何回殴られてるんだ?この俳優さん」
「来年には映画にもなるんだって」
遠慮知らずの海斗と拓哉はテーブルをバンバンと叩き、リモコンに手を伸ばして面白がっている
そんな中、力もソファーの端にどっしりと脚を組んで座ってクックックと肩を揺らして笑っていた、彼の低くて温かみのある声が、騒がしいリビングに響く
「俳優の斉藤健君はすごく良い役者だよ、何回も僕に電話してきて『力さん、殴られた時は痛かったですか?』とか、『どんな風に痛かったんですか?』とか、『倒れたって書いてあるけど、右に倒れた?左?それとも前に?』って、すごく熱心に聞いてくるから、僕は胃の中のものを全部吐き戻したと答えたよ」
力はその時の電話を思い出すように目を細めた
「健君があまりにも真剣だから、思わず『うちに来て奥さんと一緒に再現してあげようか?』って誘いたくなったぐらいだよ!」
その言葉に、真由美がケラケラと高らかに笑いながら割り込んだ
「あら!だったら、あたしに聞いてくれればよかったのに!だって、沙羅のあの拳が綺麗にクリーン・ヒットしたのを見たのはあたしなんだから、下から・・・こうっ!」
真由美は両手で拳をにぎり、まるでボクシングの試合を再現するかのようにパンチの仕草をしてみせた
「沙羅の勢いはそんなもんじゃないわよ」
と陽子
「なんなら今ここで再現してくれよ!沙羅に一発、みぞおちに食らわせてもらったらどうだ?」
と拓哉、力はニヤリと笑ってキッチンの方へ大声で呼びかけた
「おーい、沙羅!ちょっとこっちへ来て、僕のみぞおちを殴ってくれないか?」
その冗談が飛ぶと、ドッと笑い声と共にリビングの空気をさらに熱くした
キッチンでは沙羅がおたまを握ったまま、顔をトマトの様に真っ赤にしてジト目で振り返り、恥ずかしさと憤慨が入り混じった表情でリビングに向かって叫ぶ
「あなたを殴るなんて、一生ありませんっっ!」
リビングの全員が、沙羅のその反応にまたしても大爆笑した
沙羅の横で誠がクスクス笑いながら静かにリンゴを剥いていた、沙羅とお揃いの色違いエプロンを身につけ、落ち着いた手つきでナイフを動かす彼の姿は、騒がしいリビングの中で一際穏やかだった
あの悪名高いプロデューサージョンハンの判決が決まるまで、彼は何度も韓国と日本を往復し、過酷な事情聴取を受けてきた
証人保護プログラムのもと、護衛に囲まれながらの移動で時には疲れ果てた表情を見せることもあったが、沙羅やブラックロックの仲間達の温かい励ましが、彼の心を支えていた
誠はリンゴを薄く切りながら、ふと沙羅に目をやった
彼女の薬指には『エターナル・プロミスリング』のエンゲージリングとマリッジリングが二重で一つに輝いている、そして誠にはなにより母親の様な沙羅の励ましと笑顔が、誠の人生を立て直すちからになった
じっと自分を見つめる誠に沙羅が聞いた
「?・・・誠君?どうしたの?」
リビングは再び笑い声で満たされ、力が弾くギターの音色が聴こえる、ブラックロックの仲間達は音楽と絆を通じて過去の傷を癒し、未来への希望を紡いでいた
うん?と首を傾げる沙羅に誠は微笑んで言った
「別に・・・ただ幸せだなと・・・思っただけ・・・」
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【1年後】
東京の後楽園にそびえる東京ドームは、2026年7月の夕日に染まり、まるで都市の鼓動のように輝いていた
ブラックロックのジャパンツアー初日、5万人の聴衆がこの聖地に集結し、街全体が熱狂の渦に飲み込まれていた
JR水道橋駅や後楽園駅からドームへと続く道は、まるで祭りの参道のように人で溢れ、ズラズラと押し寄せる観客の波がアスファルトを埋め尽くす
スニーカーの擦れる音、興奮した笑い声、友達同士の弾んだ会話が、空気を震わせていた、若い女性がブラックロックのTシャツをまとい、キラキラ光るペンライトを手に叫ぶ
「やばい、ついに初日だよ!メンバー見るの二年ぶり!」
その隣で他のファンが目を輝かせて言う
「あなたファン歴何年?古参?」
ドームの周囲はまるでカーニバルのような活気に包まれていた、グッズコーナーは前日から徹夜で並んだファンで長蛇の列をなし、限定タオルやキーホルダーを求める人々が押し合いへし合い、スタッフの「整列してください!」という叫び声がかき消され、トイレの前も同様に人で溢れていた
その横では二人のブラックロックのTシャツとロングスカートのOL風の女性が、汗だくの若いドームスタッフを捕まえて苦情を言っている
クドクド・・・「ほらぁ~見て、もう列が溢れかえってて~もうあれ全然時間内に終わんないよ?」
ペコペコ「ハイッ・・・ハイッ」
クドクド・・・「ファン達もずっと怒っててぇ~なんて言うんだろ、あたし達古参から言わせてもらうとぉ~、ファンが増えたことは本当に凄いと思うのね?凄い事だと思うんだけど、運営の受け入れ態勢があまりにも出来てなさすぎる?このままだとファンを逃がしちゃうかなってぇ~?」
まだ若いスタッフは、青色のスタッフTシャツに汗を滲ませ、必死に頭を下げる
「そうそう、これ誰も言う人いないと思うから言うけどぉ~、でもうちらはこのグループにもっと大きくなって欲しいから、あえて言わせてもらってんの!」
ペコペコ・・・「ハイ!ハイ!ごもっともです・・・大変申し訳ありません」
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ファンは思い思いのコスプレでこの祭りに彩りを添える、力のトレードマークである革ジャンを模した衣装、誠の鮮やかな赤い衣装を完コピした少女達
ある一角ではペンライトを持った振り付けで力の熱烈なファンが「RIKI!RIKI!」とリズミカルに掛け声の練習をしている
ドームの外周をブラックロックのラッピングバスがゆっくりと巡る、バスの側面には、拓哉のベースを弾く姿、力のマイクを握る瞬間、海斗や誠の笑顔が大きくプリントされ、ファンがスマホを構えてシャッターチャンスを狙う
「バス、かっこよすぎ!」
「これ、SNSに載せて!」
と叫ぶ声が響き合い、バスが通過するたびに歓声が上がる
ドームへ続く道の柱には、ブラックロックのフラッグが等間隔に掲げられ、風に揺れてバタバタと音を立てている、フラッグには「BLACKROCK JAPAN TOUR 2026」と金文字で刻まれ、力、海斗、拓哉、誠のシルエットが力強く描かれていた
ドームの側面には力の巨大看板がそびえ立ち、ファンのカップルがその前でプロポーズすると幸せになると言う伝説が生まれていた、あるカップルはお互いマリッジリングを光らせながら
「力と沙羅みたいになりたいね」
と笑顔で呟いた
場内のゲートが開くと、5万人の観客が一斉に流れ込み、ドームはたちまち熱気と期待で膨れ上がった
場内では、巨大スクリーンにブラックロックのオープニング映像が流れ、拓哉のベースソロや力の透き通った歌声がファンを煽る、座席に着く前からペンライトを振る手が揺れ、まるでここだけ銀河が降って来たみたいに光の海がドームを満たしていた
そして観客席では驚くことに力の娘・音々の手作り団扇を掲げるファンが大勢いた、彼女達は期待に胸を躍らせ互いに話し合っている
「今日のシークレットゲスト!絶対音々ちゃんだよ!」
「リハの音漏れで『メロンパン』流れてたって誰かが言ってたよ!」
キャーッ!「音々ちゃん!」
「『メロンパン』歌うの?ヤバすぎっ!!」
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【東京ドーム・バックステージ】
初日の東京ドームのバックステージは、まるで戦場の司令室のように活気づいていた
5万人の歓声がコンクリートの壁を震わせ、コンサート真っ最中の力の歌声がドームを揺さぶる、ステージではブラックロックのライブが最高潮に達している
控室では大型モニターに熱唱する力が映り、その部屋の隅でスタッフIDカードを首にぶら下げた沙羅と、力の父親である健一が緊張の極致にいた
健一は額に冷や汗をだらだらと流し、ワイシャツの襟をひっきりなしに緩めている
ガタガタガタ・・・「も・・・もうすぐ音々ちゃんの出番だな・・・私は倒れそうだよ」
横で同じく顔を真っ青にしてガタガタ震えている沙羅が言う
ブルブルブル・・・「だめですよ!お義父さん、私より先に倒れないでください、誰が私を介抱するんですか」
二人の心には音々への愛と、このコンサートの5万人の期待を背負う重圧が交錯していた
そこへ、オレンジ色のディレクターズニットを肩にかけ、トンボサングラスを鼻先にずらした陽子が、スタッフスケジュール帳をクルクル巻きながら颯爽と現れた
「やぁね~!二人とも真っ青よ、落ち着いて!音々ちゃんはバッチリ準備万端よ!」
陽子の声はバックステージの慌ただしさを切り裂くように明るい
彼女は今や力の推薦でファイブJapanの「ブラックロック音楽営業部」の報道担当官として抜擢された、その当時は大丈夫だろうかと沙羅に一抹の不安を与えたのだが、陽子の天性の明るさと大胆な拡散力は、時に無謀に見えたが、今では誰もが認めざるを得ない敏腕ぶりだ
力の人選は大成功だった
陽子はこの数時間でなんと音々のYouTubeチャンネル「いちごNENE」と連携し「#音々ドーム初日」をSNSでトレンド入りさせた
陽子が手掛けるXやインスタグラムをはじめ、各SNSでの媒体の音々の投稿は、5万人のドームの初日の期待をさらに熱くし、音々のキッズ・ラッパーとしての魅力を世界に発信していた
突然、沙羅達のいる控室がザワザワと騒がしくなった
「音々さん、控え室入ります!」
「音々さん、入ります!」
「音々さん、入ります」
スタッフの掛け声とともに、ステージ衣装に身を包んだ音々が大勢の人に囲まれて現れた
その出立はピンクのスパンコールが散りばめられたカウボーイブーツ、カウボーイハット、黄色いカーリーヘアのウィッグ、フリンジが揺れるショートパンツとセパレートのベスト、キラキラのグローブには音々の初シングル『メロンパン』のコンセプト通り、小さなメロンパンがあちこちに縫い付けられていた
全身キラキラピンクの輝きをまとった音々は、まるで小さな銀河のスターだ
今はひと昔前のトムキャットのような顔半分を覆うサングラスをかけ、9歳とは思えない堂々とした佇まいだ
一年前、自宅の地下室で、力がふざけて配信したライブ中に音々が「メロンパンの歌」を歌ったことがきっかけで、「#力のミニチュア」「#スタンプ親子」としてファンの間で大ブームが巻き起こった
力の「MIDIパットコントローラー」を巧みにあやつって繰り出す音々のサウンドはとても斬新で
キッズラッパーとしての天才的な才能を全世界に見せつけた、それからは驚くことにヒップホップバンドからのコラボオファーを次々と音々は引き寄せている