彼が話したのは、『……もうこだわることも、ないのかもしれませんね…』と、決別を切り出された、いつかの夜のことだと思った。
「……あの時、あなたにこだわる理由を聞かれて……自分でも、それがどうしてなのか、よくわからなくて……」
コーヒーを口にして、ふぅ…っと彼がひと息をつく。
「……ですが、今ならば、なんとなくわかる気がします……」
それから顔を上げて、じっとこちらに視線を向けると、
「……私は、あなたのことが、好きなのかもしれませんね……」
彼は、私から目を逸らさないまま、思いも寄らない一言を告げた──。
「えっ……?」
ふいの告白に、驚いて聞き返す。
「正直、自分でも本当のところは、まだよくわからないのです……。私は、自分から誰かを好きになったことなどがないので……」
そう言葉を続ける彼に、
『恋をする必要性を感じたことも、ありませんでした……私を好きにならない女性など、いなかったので……』
傲慢でしかないと感じていた、彼のかつて言いようが、私の頭に呼び起こされた──。
コメント
1件
言い寄って来る女の人は多かったのがよくわかる。自分から人を好きになる事なんて思ってもいなかったんだろうな。だから今、人を好きになる事で戸惑っているんだね。