コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
人生は線路に似ていると、彼は言った。始点…始発の駅があって、終点…終着駅がある、と。「1本の線だけじゃないんだ」彼は言った。
「大きな人生の線があって、そこの分線に恋愛だとか家族だとか、そういうものがあるんだよ」
なにそれ、と笑った記憶がある。私からしてみれば大人で他と違う雰囲気のあった彼は、私の笑いを いつ理解してくれるかな? という揶揄いで返した。
それが丁度、3年前の春だった。
今考えると、彼の言う“恋愛の分線”の始発はそこだったのではないかと思う。彼から目が離せなくなって、どこにいても会えないかと探してしまって、そのくせ彼の前では意地ばかり張ってしまう。この未完成の気持ちが所謂恋だと、どこかで私は知っていた。彼のことが好きで好きで堪らないのだと自覚していた。両想いになれなくてもいいから、近くにいて、毎日他愛ないことを話して、それで…それで機会があれば、玉砕覚悟で告白してみるのもいいのかもしれない。そんなことを妄想して、可愛い子にならなければと気合を入れた。
新しい洋服を買って、痩せると話題のサプリメントも買って、とにかくお小遣いの許す限りは自分磨きの為に出来ることならなんでもした。彼の好みはどんな子だったか。バレないようにさりげなく訊ねて、そのタイプになれるよう努力した。伸ばしていた髪を肩まで切って、春色の服を身にまとった。
──終点があることなど、理解していなかった。
「大学?……俺は地方だよ」
だから同じとこは無理じゃないかな。 そう言った彼の表情は、わからなかった。
ずっとそのまま近くにいるものだと思っていた。大学付属なんだし、私も皆もエスカレーターで上に行くのだから、きっと彼もそうなのだと疑わなかった。
「…一人暮らし、ってこと?」
「んーん、寮」
推薦をもらえる旨が書かれた紙は先程まで宝物のようだったのに、今ではもう何の価値もないように思えてしまう。息が吸えない。会えなくなってしまうという事実から、無意識に目を背けている。
始まりがあれば、必然と終わりもある。高校生という分線の始発の駅があれば終点もあることと同じ。恋愛も、きっと同じ。
春はもう終わる。春色の恋はここまで。
理解しても、まだ納得など出来るはずもない。しかし私には何も出来ない。
「次は分線じゃなくて、本線で会おうよ」
勢いあまって口にしてしまった言葉に、彼は一瞬きょとんとした表情をして、
それから小さく「大胆な告白」と呟いた。