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『第十九話 浴衣姿の司令塔』
──文化祭当日。
開会式が終わると、クラス全員が教室に集まる。
そして円陣を組み、法被姿の結衣が掛け声を上げる。
「みんな、楽しんでいこう!」
『楽しんでいこうっ!』
「3年B組っ!わっしょーい!」
『わっしょーいっ!!』
クラス全員の掛け声が教室を揺るがす。
「開場五分前です!持ち場についてください!」
そして浴衣姿の千夏の声で、皆は自分の役割に向かう。
「ちょっと迎えに行ってくる」
そんな中、路木は教室から出て行く。
「あれ、路木さん逃げた?」
結衣は眉をひそめたが千夏は、かき氷屋台を見る。
準備は完璧に出来ていた。
「大丈夫だよ」
千夏は自信を持って、そう言った。
「ほら、大人しくしてろよ」
「お、おはようございます……」
「……ましゅ」
路木が教室に戻ると、緊張した顔の小学生男子と、もじもじしている就学前の女子を連れてきた。
「悪い。親が仕事だから子守りしながらでもいいか?」
「か……」
結衣の目が一気に輝いた。
「可愛いっ!!」
男の子が皆の前に出る。
「あの…姉がお世話になっています。今日は僕たちも手伝います」
「てつだいましゅ」
二人揃って、ぺこりと頭を下げた。
「全然オッケー!!」
クラス全員が温かい笑顔になる。
「これ着てみる?」
千夏は貸し出し用の子供浴衣を持ってきた。二人は嬉しそうに袖を通した。
「さぁ!頼もしい助っ人も来たし、始めるよ!」
もう、来場者が廊下を歩いている。
ついに文化祭が始まった。
──
「アオハル縁日カフェ?おもろ!」
「写真撮ってこ?」
教室には、入り切らないほどのたくさんの笑顔があふれていた。
「浴衣とフォトフレーム貸し出します!」
「ここで写真撮ってくださーい!」
「ラムネ冷えてますよ!」
「たこ焼き、お待ち!」
「射的、最後尾はこちらでーす!」
千夏はクラス全体の様子を見ながら、来てくれた人たちに声をかける。
「ありがとうございます!」
「よかったら写真撮りますよ?」
「浴衣、とってもお似合いですよ」
花村生花店での経験が思わぬところで役に立っていた。
──
そして一日二回、廊下では──
「お神輿いくぞー!」
法被姿の結衣が先頭に立ち、ホイッスルのリズムに合わせて男子生徒が「わーっしょいっ」と掛け声を出す。
お神輿と言っても物干し竿を井の字に組み合わせ、上に段ボールで出来た小屋みたいな物が乗っただけだ。
それでも賑やかに廊下を練り歩くと、みんなが笑って見に来る。
他のクラスや他校の生徒、先生までも巻き込んで盛り上がった。
あの男子三人組も来てくれて、結衣に無理矢理担がされていた。
初めは恥ずかしそうだったが、なんだか楽しそうだった。
フォトスポットで、隼斗が千夏に何か言いたそうにしていた。
けれど、あまりにも忙しそうな姿を見て、結局声をかけられずじまいだった。
「ダッセ」
「空気読めるようになったじゃん」
「……うるせえよ」
隆太と瑛人が笑いながら、隼斗の肩を軽く叩いた。
縁日や神輿の写真が撮られる度にSNSに投稿される。
それを見て人が集まる。
「やっほー、盛り上がってんじゃん?」
「オススメはなに?」
ホスト姿のアカネと山姥衣装の珠子も見にきてくれた。
「わっ、このかき氷、めっちゃふわふわ!」
気づけば路木のかき氷が一番行列が長い。
「次、何味?」
「イチゴ味お待たせしましたー!」
「おあたせしあしたー!」
路木は淡々とかき氷を作り、弟妹が行儀よく行列をさばいていく。
さすがきょうだい。息がピッタリだ。
──
大盛況だが、トラブルもあった。
「マヨネーズ足りなくなった!」
「ブルーハワイのシロップも」
「私が買ってきます!」
浴衣姿の千夏が走り出そうとする。
「俺が行ってくる!チャリあるから!」
「でも……」
「亜土さんは司令塔!動くのは任せろ!」
「お願いします!じゃあ帰ってくるまで射的をフォト係さんが手伝って!」
「千夏!私も今フリーだよ!」
「結衣さん、シロップ裏にあるからお願い!」
トラブルが起きても、千夏が真っ先に動き、それを誰かがフォローする。
そんな流れが、いつしか自然になる。
──
あっという間に土日の二日間が過ぎ、最後に後夜祭が始まる。
校庭に用意された野外ステージでは、展示や出し物で評価が高かったクラスや部活が表彰された。
千夏たちのクラスは『話題特別賞』。
クラスの代表として結衣が校長先生から表彰状を受け取った。
「わっしょーい!」
『わっしょーいっ!!』
結衣はステージで賞状を掲げて掛け声を上げる。
それに応えるクラスメイトたち。
最初は千夏がステージに上がれと、みんなから言われたけど……さすがに無理。
こういう目立つ場所は結衣のほうが適任だ。
千夏はそっと校庭を離れ、まだ片付いていない教室へ戻る。
教室には誰もいない。
けれど、ほんの少し前まで聞こえていた笑い声が、まだ残っている気がした。
「終わったね」
いつの間にか隣に立っていた結衣が笑う。
「うん……結衣さんのおかげで成功だったね」
「ううん、千夏が企画から本番まで全部やってくれたから。私は騒いでいただけ」
「そんなことないよ」
千夏は少し照れくさそうに笑う。
結衣は千夏の肩に手を置いた。
「千夏って、人をまとめるの向いてるんじゃない?」
千夏は少しだけ驚き、実行委員になってから今日までを思い返した。
胸の奥が、ぽっと温かくなる。
本当に向いているかわからないけど……
人を導くって、こんなに嬉しいことなんだ。
千夏はまだ知らない。
この日の気持ちが、いつか自分の夢へとつながっていくことを。
──続く
コメント
3件
なんだか、千夏さんが明るくなってきたように感じます。やっぱり人との関わりって大事なんですかね……? 続きも楽しみにしています🥰️
わあ、文化祭の盛り上がりがすごく伝わってきました!浴衣姿の千夏さんが司令塔としてみんなをまとめている姿、本当に素敵ですね。路木さんの弟妹たちが手伝ってくれたり、トラブルにもすぐ対応する千夏さんの機転の良さが光っていました。結衣さんが「人をまとめるの向いてるんじゃない?」って言った言葉に、じんわりしました。千夏さん自身も気づいていない新しい才能を見つけた瞬間だったのかな…。最後の「この日の気持ちが、いつか自分の夢へとつながっていく」という一文に、これからの展開がもっと楽しみになりました。温かい読後感をありがとうございます!