:深夜のスタジオスタジオにこもり、日付が変わったころ。
飲みかけのコーヒー、チューニングの途中で放置されたギター。
そして、藤澤涼架の背中。
「……ねぇ、またそれ?」
元貴がソファに腰を沈めながら、ぼそっと言った。
「うん?」
涼架は背を向けたまま、ピアノの音を確かめるように鍵盤に触れた。
「今日で3日目だよ、俺らのこと無視してんの」
元貴の声に苛立ちが混じる。
「無視してるつもりはないけど?」
ピアノの音にかき消されるように、涼架の声は淡々としていた。
滉斗が割って入る。
「……元貴、やめとけよ。
言っても無駄だって。」
「だとしても!」
元貴が立ち上がり、涼架の背後へ歩み寄る。
「俺たち、ただのメンバーじゃないよな? それくらい、気づいてるだろ?」
涼架はようやく手を止めた。
「……だから、放っといてって言ってる」
沈黙。
滉斗が苦笑いを浮かべる。
「放っといてって、ね……あんまりだよ」
「俺らさ、涼ちゃんの音がなきゃバラバラになるの、わかってる?」
「けどさ、それでも……何も言わずに遠くにいかれるの、俺は嫌なんだよ」
元貴も続く。
「お前、俺らの気持ちわかってんの? わかってて無視してんの?」
「もう、こっちから追いかけるのもしんどいんだよ」
涼架は振り向かない。
「俺の気持ちは、音にしてるつもりだけど」
「それでも伝わらないなら、もういいよ」
その言葉に、滉斗の肩が落ちる。
「ずるいよ……それ」
「音に乗せた気持ちだけで全部伝えられるって思ってるの、涼ちゃんだけだよ……!」
元貴は拳を握りしめる。
「俺は、お前の“間”が怖いんだよ」
「無言で背中向けられて、そのまま何もなかったみたいにされんの、耐えられないんだよ」
「それでも、俺が何も言わなきゃ、ずっとそのままだろ」
「お前の“静けさ”は、優しさじゃない。逃げてるだけだ」
沈黙の中で、元貴達は涼架の姿を見つめていた。
すると、涼架が、ようやくこちらを向いた。
静かな瞳。
「……じゃあ、元貴達はどうしたいの?」
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