アクアside
あの日から数日が経過した。あれから俺は役者としての活動を控えている。正しくは、社長であるミヤコさんから強制的に活動休止を言い渡されたと言った方が良いな。まだあのトラウマは根強く残っているが、ある程度外に出られるようになっただけマシになった。まぁ、それは姫川さんの力が大きい。ルビーやあかねのように過保護になって外に出そうとしない奴らと、鷲見や姫川さんのように積極的に外に出そうとしてる奴らがいる。俺だけだったらきっと、こんなに早く回復できなかった。
姫川)悪い、遅れた
アクア)いえ、大丈夫です
姫川さんを方を向くと、少し違和感を感じた。
アクア)稽古終わりですか?
姫川)いや、今日はオフだけど…なんか変?
変っていうか…ある意味では変なのか。
アクア)なんか手入れされてるなって…すみません。失礼でしたよね
つい、思った事をそのまま口に出してしまった。気を許した相手に対して態度がデカくなるのは俺の悪い所だな。
姫川)気にすんなよ。お前は一応…弟みたいな存在だから、もっと気安くしてくれて良いのに
アクア)異母兄弟だって知らせた時はあまり良い反応して無かったのに?
姫川)気のせいだろ
そっぽを向かれた。釈然としないまま、歩き出す。姫川さんも歩きだし、俺の前に来た。どこかに向かう時は姫川さんが店を決めている。あの事件の前では有り得なかった光景だ。
アクア)あの事件の事、気にしてます?
姫川)…まぁ、してないって言ったら嘘になる
アクア)そうですか
そうだよな。姫川さん何気に優しいから、俺が誘拐監禁されたら気遣うよな。
姫川)それより、そろそろ行かないと時間に遅れるから急ぐか
アクア)話逸らすの下手か
思わずツッコミを入れる。行動を共にしていくうちに分かったが、姫川さんは意外と嘘をつくのが下手だ。あんな凄い演技ができるからギャップがある。
姫川)良いんだよ。俺は星野に伝えたい事があるんだから
アクア)え、それってどういう意味ですか?
頭を疑問符を浮かべながら質問する。姫川さんは少し気まずそうな顔をしながらも、真剣な顔をして俺の方を見た。
姫川)最後に伝えたいから、待ってろ
アクア)はぁ……
姫川side
星野を連れてバスを乗り継ぎ、電車に乗った。5駅目くらいになってから、星野はそわそわし始めた。
アクア)姫川さん、今日は何処に行くんですか?
姫川)まだ内緒。言ったらつまんなくなるだろ
スマホの地図を見ながらそう言うと、星野は少し不満気な顔をしていた。どうやら隠し事をされるのは気に入らないらしい。
姫川)いじけるなよ
アクア)いじけてない
姫川)いじけてるだろ
アクア)……
ふいっと、目をそらされた。俺は星野の頭に手を置き、優しく撫でる。星野は目を細め、どことなく嬉しそうな表情をした。
姫川)……
最近の星野は、少し子供っぽくなった。これが本来の性格なのかは分からない。事件のトラウマからなのか、それとも愛情不足なのか。どちらにしても、初めて会った時よりも精神年齢が下がっているのは明らかだった。
姫川)そろそろ降りるぞ
アクア)…ん
星野の腕を引き寄せてから歩きだす。一緒に出かけ初めてから気づいたが、星野はよく考え事をする。それは別に良いんだけど、集中しすぎてるのか、たまに転けそうにしているのが心配だ。
ーだから、俺が動くしかない
アクア)後は歩くだけですか?
姫川)そうだな。ここからそんなに遠くないし、タクシーは使わなくても良いだろ
アクア)姫川さん、一応芸能人なんですよね……
姫川)それはお前もだろ。変装してるし、そう簡単にはバレないって
アクアside
何がバレないだ。思いっきりバレてんじゃん。少女漫画でしか起こらないと思っていた事を体験させやがって。
アクア)…姫川さん
姫川)…ごめん
まぁ、姫川さんにも悪気はないだろうからそんなに強くは言えない。それに、あの事件が起きてから色々おせわになってるし。
アクア)で、店はどこですか
姫川)目の前にある
アクア)…は?
顔を上げると、確かに1件の店があった。和菓子カフェ…みたいな所か。いや、なんで路地裏にカフェがあるんだよ。治安悪くない?大丈夫か?
姫川)ほら、入るぞ
アクア)あっ、はい……
姫川さんの腕を掴みながら、その店に入る。
ー姫川さんの表情がいつも以上に硬い気がする…気のせいだと良いんだけど
続く
コメント
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続き出してくれてありがとうございます! 続編も楽しみにしてます!