「鬱、なるべく遠くに逃げるんだ」
お部屋の外から、剣と剣が交わる音がします。
「できるだけ、遠くに」
そう言ってグルッペンは僕にコートを着させてくれました。ここにきた時にお祝いとして服屋のお姉さんにもらった紺色のコートです。そしてグルッペンは僕を裏口から逃げさせてくれました。駄々を捏ねてキンキュウヒナンの時みたいに無理矢理残ろうとしたら、グルッペンが泣きそうな顔で僕の頭を撫でて
「逃げろ。」
と言いました。グルッペンを泣かせたくなくて、僕は渋々外に出ました。外は雪が降っていました。いつもは賑やかな街も、今は誰もいません。キンキュウヒナン、っていうのでみんなどこか遠くに行ってしまいました。国に残ったのは僕と、兵士と幹部だけです。
「さむ…うぅ」
僕の手はあっという間に赤くなり、痛くなってしまいました。手袋は取ってこれなかったのです。手袋を取ろうと僕の部屋に行こうとしたら、ゾムさんに危険だと言われてしまったのです。でもさっきから歩いてお城から離れていますが、特に何も危険なことはありません。
(手も痛いし戻ろう___)
そう思って振り返ると
ととっても大きい音が鳴り響きました。地面もぐらぐら揺れています。僕は怖くて怖くて、手が痛いのも寒いのもお構いなしに一目散に逃げました。
「うっ、うえぇえん!!」
もうどこを走っているのかもわかりません。でも止まったら危険なことはなんとなくわかります。走って、走って走って__
ズザッ
「えっ__」
ふわっと体が浮きました。
(ダメだ、落ちちゃう…やだ、やだよ、痛いのやだ、誰か、誰か…!)
「助けっ__」
落ちる寸前で、誰かに腕を掴まれました。上を見上げると、ボブにツインお団子をくっつけた様な髪型をした、グルッペンと同じ綺麗な赤い目の女の子が僕の腕を掴んでくれた様です。女の子はゆっくりと僕を引き上げて、地面に降ろしてくれました。
「うっ…うぇ、うぇえ…」
あの時の落ちる感覚が怖くて怖くて、僕は女の子にひっついて泣いてしまいました。女の子は何も言わず、ただ僕の頭を撫でてくれました。
それからしばらくして、僕はやっと泣き止むことができました。女の子はずっと泣いている僕に気を遣ってか、自分の濃い赤色のケープを僕のコートの上からかけてくれました。
「あ、あの…ごめんなさい、けーぷ…」
「大丈夫よ、私は寒くないもの…それより、どうして貴方は一人で森にいるの?」
「えっと、僕は逃げろって言われて…ばくはつおんとか、色々聞こえて怖くて…ひぐっ、ずっと走ってたらどこかわかんなくてっ…」
(説明しなきゃなのに…!)
「そう…怖かったでしょう?もう大丈夫よ、すぐそこに小屋があるの。そこなら安全よ」
「ほんと…?」
「ええ」
そう言って女の子は僕を抱っこして歩き出しました。さっきまで怖くて気づかなかったけど、女の子はなんだかキゾクみたいな格好をしています。
「お姉ちゃんはキゾクなの…?」
「正確に言うと違うけれど、まあ一応…あなた、お名前は?」
「鬱…シャルル・ウツ…」
「私はマドリア・カルテッド。よろしくね、鬱くん」
「うん…よろしく、お姉ちゃん」
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