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「ただいま」
玄関を開けてランドセルを肩から下ろす。ただいまのへんじはない。それもわかりきっている。
子ども部屋のドアを開くと、中にいたパパがふり返る。
「ああ、大我おかえり。冷蔵庫にプリンあるから、食べていいよ」
「はーい」
パパは、弟のジェシーを寝かせていた。きっとまたパニックを起こしちゃったんだろう。
弟って言っても、ほんとうの弟じゃない。パパのお姉さんの子どもだって昔聞いた。どうしてぼくの家にいるかは、ぼくは知らない。だって、ずっと前からジェシーはぼくの弟としてここにいるから。
ジェシーはぼくよりひとつ下の、小学2年生。でも通っているのはぼくと同じ小学校じゃない。『とくべつしえん学校』というところだ、とパパは言っていた。
それは、ジェシーのような障がいのある子どもたちが行く学校だそう。
ジェシーは、発達障がいというのを持っている。ぼくとはちがう。それは昔からパパに言われてることだ。ジェスちゃんは大ちゃんとちがうけど、かわいそうなことじゃないんだって。
冷ぞう庫からプリンを取り出し、お皿に返して食べた。
ほんとなら、おやつだって弟といっしょに食べたい。だけどジェシーの好ききらいははげしいから、あんまりできないんだ。
「大我、学校からもらったお便りある?」
パパが部屋から出てきた。ちょっと待って、と言ってプリンを食べきるとランドセルを開けた。クリアファイルからプリントを出してわたす。
「今日はどうだった? 何したの?」
「んーとね、お友だちとサッカーで遊んだよ。でもぜんぜんシュートが決まらなかったんだ」
「そうかあ。それなら、パパと特訓しないとだな」
うん、とうなずく。でも、パパがぼくとスポーツで遊んでくれたことはそんなにない。いつも、ジェシーにつきっきりだ。
それがしかたないことだってことはわかってる。
ぼくなんかより、ジェシーのほうがだいじにしなくちゃならないから。
ふと時計を見れば、テレビで好きなアニメが始まる時間だった。ソファーにすわり、リモコンをおす。
そのとき、部屋からジェシーの泣き声が聞こえてきた。
「あ…どうしたんだろう」
パパはすぐに立ち上がって行ってしまった。きっと泣き止ませようとしてるんだろうけど、泣きさけぶ声はまた大きくなる。
テレビにうつっているキャラクターのセリフが聞こえにくくなった。
でも、ぼくは誰にももんくを言っちゃだめなんだ。
ママがいなくてもパパは一人でがんばってる。
ジェシーはぼくにできることができないから、毎日がんばってる。
ぼくは、がまんするんだ。誰にもメーワクをかけないように。
「大我。今日のごはん、何にしようか」
「…かんたんなのでいいよ」
もどってきたパパを見ることなく答える。うん、と聞こえたその声がちょっぴり暗い気がして、パパをちらりと見上げる。
でもかなしそうな顔を見たくなくて、またテレビを向いた。
続く