Side 桃
「あそぼ」
小さな声がしたほうを見れば、ジェシーがお気に入りのおもちゃを持ってやってきた。
今は、ちょうど学校の宿だいをしているところ。
「ごめんねジェス、もうちょっと待って」
ジェシーはいやそうにベッドの上にもどっていく。もうしわけなく思いながら、早く終わらせちゃおうとえんぴつを動かす。
少ししたところで、またジェシーが声をかけてくる。「あそびたいの」
「うん…兄ちゃんも遊びたいけど、今はいそがしいんだ」
すると、ジェシーの顔がくしゃっとなった。泣き声が子ども部屋にひびく。
「あーごめんな。いっしょに遊ぼうか」
抱っこしても、からだをじたばたさせてにげようとする。やがて、声を聞いてパパが入ってきた。
「どうした、何があった?」
「ジェスが…ジェシーがぼくの…!」
じゃまをしてきた。そう言っちゃいそうで、ぐっとがまん。ジェシーのせいじゃない。でも、ぼくのせいでもないよね?
ぼくは泣き声を聞きたくなくて、部屋をとび出した。そのまま家を出て、走る。
ジェシーはなにも悪くない。だけど、ぼくが泣かせたみたいになるからいやなんだ。
着いたのは、いつも遊びにくる公園だった。パパとジェシーとぼくの3人で、遊具で遊んだり、サッカーやキャッチボールをしたり。
でも今はだれもいない。ひとりぼっち。さみしい。
ジェシーは、さみしい思いをしたことはあるのかな。いつもパパがついててくれて、だいじにしてくれる。
ぼくなんて、いなくてもいいんじゃないの——
「大我」
大好きな声が聞こえてきた。パパだ。ふり返れば、ジェシーをつれたパパが立っていた。そのジェシーの手には、うすいピンクのボール。
「なんで…」
「我慢させたよな。ごめん」
ううん、とぼくは首を振る。
「大我。家族には、本音を言わなくちゃいけないんだよ」
「ホンネ?」
「本当に、大我が心の中で思ってること。痛いとか辛いとか、嫌だとか」
そう言って、ぼくのむねに手を当てる。
「ここの声を、パパにもぶつけて。ジェシーのことで我慢なんて、パパはしてほしくないんだ」
「……さみしかった」
こぼれたホンネ。パパは、ぼくをぎゅっとだきしめてくれた。ジェシーもうでのなかに入れて。
「大我もジェシーもママも、パパの大事な家族だよ」
なみだが出そうになったけど、ぼくはお兄ちゃんだから泣かない。強いんだ。
「ジェス、遊ぼっか。キャッチボールしよう」
「あそぶっ、にーにとあそぶ!」
ぼくはびっくりした。今まで、弟に名前もよばれたことがなかったから。今、ぼくのことを「にいに」って。
「よかったな大我! たまに言う練習してたんだよな。よく言えたね」
パパと2人で、ジェシーのあたまをなでる。うれしそうだ。
「よし、おいで。あっちの広場までかけっこだ!」
楽しそうに笑ったジェシーは、ぼくの後ろから走ってついてきた。
にくらしくてかわいくて大好きでしかたがない、ぼくの弟。
きみとだったら、どこへだって行けそうなきがするんだ。
終わり
コメント
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ちょい前まで病系の話とか全く読んでこなかったけど、 micoちゃんが書く病系は悲しいだけじゃない(伝わる?)終わり方で好き🥹