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「こんにちは!僕は天草 るい、今日はよろしくお願いします。会えて光栄です!」
役所に着いた時、職員がぶっきらぼうに差し出してきたのが、その少年だった。
「帝王の仰せの下に!縷籟警軍学校、特待2年の月山 陸で〜す!」
「同じく、星川 空です。」
「1年の氷高 翔空っす。よろしく!」
るいは爽やかな少年だった。整った顔に、少し緑がかった綺麗な目をしている。とても好印象だ、西賦人だからと少し構えていたが、どうやらそれは杞憂だったようだ。
3人の軍服を見て、るいは目を輝かせた。
「うわぁ、かっこいいですね。華立国王は……滅多に縷籟警軍を頼らないので、僕、案内するの初めてなんです。お役に立てるよう尽力いたします!」
「……ごめん、カダチ コクオウって、誰?」
「えっ。」
陸の質問に、るいは驚いたように、固まった。代わりに、空が、少し引きながら言う。
「西賦の国王様だよ………。リクくん………よくそれで、学校受かったね……。」
「あ、そっか。」
「……オレもびっくりしたわ。知らないマ?ないわー、センパイ。」
「もーやめてよ、ちょっと忘れただけでしょ!」
るいが苦笑しながら、説明をしてくれる。
「国王様が華立 翼生 様、王妃様が華立 翼羽 様と言います。そのお子様……王子様が華立 羽生 様と言うのですが、この王子様が今年度の頭から失踪していまして。西賦王国は今、大混乱に陥っています。」
「えっと、カダチ ヨクオ国王、カダチ ヨクハ王妃、カダチ ハオ王子……なんか、全員名前が似通ってて……めちゃ覚えにくいね。」
「な……なんて失礼なこと言うの、リクくん……!」
「さーせん、こいつがさっきから、無礼で……。」
「いえいえ!実際覚えにくいですし……この国では、国王の悪口を言っても、誰も文句なんて言いませんよ。……“悪魔”、ですから。」
るいはまた、苦笑をした。悪魔……西賦の国王によく使われる、有名な例えだ。
「全てが王のためにあると思っているんです、あの方は。そう育てられたのでしょう、国王はどの代でもそうなんです。
それに……悪魔という言葉には、比喩表現でもなんでもない側面もあります。縷籟の方々がウエポンを使えるように、国王様一族にも異能が使えるらしく……具体的には知らないのですが、それは比喩でもなんでもなく、“悪魔”らしいのです。」
「えーっ、かっこいい!」
「……そうですかね。そのような側面があるだけで、国民から見れば、それが無くとも立派な悪魔です。縷籟の方々は、今は亡くとも、帝王様を信仰されているのに、僕たちの王は本当にみっともない。」
優しく温厚そうな彼も顔を顰めるほどだ、よっぽどなのだろう。とても気の毒だ、しかも西賦は国民を、そう簡単には逃がしてくれない。国王のために働き金を納める、それはもう、国王のために生きてると言っても過言ではないのではないか。るいはそう、ため息をついた。陸も、空も、翔空も、それを気の毒そうに、静かに聞いている。
「あっ、ごめんなさい、暗い話をしてしまって!犯人が姿を現すまで、彼らの話をしましょうか。」
「姿を現すまで……。」
そうだ。今回の標的は“オトギリ”のメンバーだと言っていた、つまり、あちらの方から縷籟警軍に寄ってくるのだ。今までのように探す必要が無いというのは楽だが、同時に、いつもの数倍は緊張する。
「比較的、民度の良いお店を知っています。お昼ご飯は済ませていますか?」
「あっ、たしかに、まだ食べてない。」
「ではそこで軽食をとりながら、犯人についてお話しましょうか。腹が減っては戦ができませんので!」
「あ、ありがとう……!」
るいはニコッと笑うと、前を向いて歩き出した。西賦人の割に……なんて言い方をしたら失礼だろうが、彼の柔らかい態度は、今まで強く根付いていた、彼らへの害悪な印象を払拭してくれた。
「………」
空は、能天気に前を歩く陸を見つめる。
(なんだろう。すごく……すごく、気持ち悪い感じがする。)
体調が悪い訳では無い。ただ、妙な胸騒ぎがするのだ。その原因には、心当たりがあった。
犯人が姿を現すまで、“彼ら”の話をしましょうか。……るいは確かにそう言った。つまり犯人は2人以上だということだ、初耳である。来る前から気になってはいたが、なぜか今回、任務前に発行され、配られる紙に、犯人の情報が載っていなかった。
なぜあの紙には犯人の情報が載っていなかったのか?2人以上の犯人を……2年生の陸と、自分と、1年生である翔空の3人きりで……捕まえられるのだろうか。犯人が2人以上だということが紙に載っていれば、空は、絶対に誰か、先輩に助けを求めていた。
こちらを殲滅したいオトギリ、そのオトギリの情報をまともに伝えられず、とりあえずで派遣されたような自分たち。まるで……オトギリ側が有利になるように、仕組まれているようだ、空は、そう感じた。
「なあ、そういえば、ソラ。腰にだいぶヤバそうなのついてるけど、武器か?」
考え事をしてるところに、後ろから急に声をかけられ、空は異常な程に肩を上げた。
「うわっ………びっくりした。」
「ははっ、めっちゃビビるじゃん。ごめんって。」
翔空はけらけらと笑いながら謝る。
「ううん……大丈夫だよ。僕の腰についてる物……?あ、斧のこと?」
「これ、斧なのか?」
空の腰のベルトには、たしかに、いつもはない物が括り付けられていた。木材の棒の端に、平たい板がついていて、その板にはカバーがかけられている。
「うん……ラブリュス……あ、両刃の斧だよ………。僕の武器なんだ、いつも、任務では、これを使う……。」
「へぇえ、優しいソラの割りに物騒だな。」
「ぶ、物騒……!?そうかな……リクくんのほうが、物騒だよ。」
「ソラちゃん、なんて!?」
るいと談笑していた陸が振り返った。翔空が陸の腰周りを見ると、陸もまた、何かを腰に付けていた……この形はわかりやすい。きっと、弓だ。
「普通に考えて、弓と斧だったら、斧の方が物騒じゃない?しかもソラちゃんの斧、ウエポンのおかげでとんでもない殺傷力あるでしょ?」
「ウエポンのおかげで……?」
「ああ………う、うん、一応。僕程度の腕力で……せ、成人男性の首をスッと落とせるくらい………。」
「うひょー。とんでもねえな。」
「ウエポンのおかげ………。」
翔空は、そこに引っかかっていた。ウエポンとは召喚物であり、それによる体力の向上や武器の性能の強化は不可能であると思っていたが……勉強不足だろうか。
「ソラちゃんのウエポンは……この世に2人いないんじゃないかな。すごく珍しいよ、俺も同じベクトルだから同じようなものだけど。」
「へえ、そうなんだな。」
具体的には何なのか……翔空には、聞きたくても聞けない事情があった。聞き返されたら困るのだ、翔空は、自分のウエポンを答えることができないから。
戦闘をすれば自然とめくれるだろう、この2人のウエポンも、下手をすれば、自分のそれも。それは何としても避けたいが。
「………着きました。ここです。」
るいは3人を振り返ってから、店に入っていった。カランカラン……と、ドアに付けられた鈴の音が鳴る。
「国の奢りですので、なにも気にせず食べてください。」
「ソラちゃん、トアくん。いつ任務が来るか分からないから、軽食ね。」
「へーい。」
空も頷く。入口近くの席に座り、全員が注文を終えると、るいは、犯人について、話し始めた。
「……あそこであってる!?」
「はい、あってます!」
西賦の、とある大きな公園。普段は子供たちで賑わう原っぱには、人1人いなかった……西賦の警察が敷いた規制によるものだ。
「罪状は詐欺のくせに……公園に呼び出して真っ向勝負とか、どれほど縷籟警軍を潰したいんだよ!」
「ほんとにな!つーか西賦の警察、規制してる暇あんなら、詐欺師殺せよ!」
「それな!どれだけ俺たちになすり付けるんだよ!」
陸も翔空も、どこかイラついている様子で走っていた。空はそんな2人の背中を不安げに見つめながら、るいを抱えて後を追う。
「ソラさん、疲れませんか……?僕、走れますよ!」
「あ……ううん、平気だよ。こう見えて……スタミナだけは、この場の、誰よりも……あるから。」
「そうなんですね!」
「だから……案内に、集中して、大丈夫。」
「了解です。あっ、お二人とも!あそこに立っている、黒い服の……あいつです!」
「……!」
るいが指した方向には、ぽつんと、長身の男が立っていた。それを視界に捉えた瞬間、陸と空の足が、一気に速くなった。
やがて近づき、顔が見える程の距離になった。少し歳を食ったような見た目だ。男は駆け寄ってくる4人を見て、ニヤッと笑ってから、拳銃を構える。
陸は足を止めて、近くの木に登り始めた。
「ソラちゃん、トアくん、気をつけてね!」
るいをその木の根元に降ろしてから、空は頷く。どうして陸が木に登ったのか、何も分からない翔空も、雰囲気で頷いておいた。
男は銃を構えたまま、引き金を引く様子はない。空は斧を引き抜き、それについていたカバーを放り投げてから、足を止めることなく構えた。
空が振った刃は、男の胸すれすれを空ぶった。すかさず横から翔空が蹴ろうとするが、それも華麗にかわされる。男は拳銃を持ったまま、後退するように空と翔空の攻撃を美しくかわしていった。まるで余裕そうな表情に、2人は少しだけ焦る。
陸は太い枝に座り、走る2人を見下ろしながら、弓を構えていた……矢をセットせずに。
遠距離が強い弓に、それ用の矢がついていれば、継続的に攻撃するためには、放った矢を拾いにいかなければいけない。縷籟警軍が使う武器として、弓だなんて、非効率的を通り越して非現実的なのだ……しかしこれは、陸が使う場合を除けば、の話である。
「狙いを定めて〜!」
陸は楽しそうに、なにもセットされていない弦を引いている。 そして標準が犯人に定まると、弦から右手を離し、こう叫ぶ。
「クピド!」
すると、どうだろう。先程まで何も無かった空間に、突如として、空気を切り裂くようにして進む矢が出現した。その矢はまっすぐ男のほうへ飛んでいき、かなり近づいたところで気がついた男は、咄嗟に避ける。矢は男の足元に刺さったが、直後、姿を消した。
男は驚いたように、木の上の陸を睨んだ。陸は動じる事なく、次の矢を構える。
「びっくりしたでしょ?俺のウエポン、神様なんだ。あの時は指摘しなかったけど、クピドは天使じゃないよ、神様だよ、ソラちゃ〜ん!」
「………はいはい、うるさいよ、リクくん…!」
陸は楽しそうだった。空は飛んでくる陸の矢を上手く避けながら、じりじりと犯人に攻めよっていた。
(………おかしい。)
この違和感、矛盾点。空は気がついていた。
なぜ、敵が1人しかいないんだ。るいの話によれば、彼らは双子で、それを1人と偽ることでアリバイを偽装し、今まで様々な詐欺行為を横行していたそうだ。
(情報が間違ってたのかな……いや。今はそんなこと考えてる暇、ないかも。)
陸は気楽でいい、たくさん矢をうつだけで良いのだから。矢をかわしながら犯人を詰める、近距離派の見にもなって欲しい気分だ、少しでも気を抜けば犯人より先に食らってしまう。
しかし焦る必要は無い。状況はだいぶ、縷籟警軍側が優勢なように見えていた。しかし、それも束の間……犯人も焦りを感じたのだろうか、直後、空間に、パン!と大きな銃声が響いた。
「…………いっ…!」
翔空がその場にうずくまる。
「トアくん!」
空が振り返った直後、もう1回、銃声がパン!と鳴った。
「いぁっ……!?あっ、あ………。」
銃弾は空の手に当たった。鋭い痛みに涙が出るが、至って冷静に、空は翔空を蹴飛ばして遠くにやってから、血の流れる手で斧を握り直した。
(やばい、拳銃、やっぱ弾が入ってた……。)
力を振り絞って、斧を振った。辺りには空の赤い血が舞い、その度に焼くような激痛が手に走る。
「トア、生きてる!?」
陸が弓を構えたまま、声をかけた。本人からの返事はない……その代わり、蹴飛ばされた翔空に駆け寄ったるいの、大声が聞こえる。
「命に別状はありませんが、足を撃たれているので、動けそうにないです!」
「わかった、ありがとうルイくん!ソラちゃん、無理はしないで!」
空は声を出せなかった。犯人の男は、空の痛そうな顔を見て、気持ち悪く笑ってから、もう一度発砲する。その弾は空が持っている斧に当たり、痛みで握力が弱っていた空の手元から、斧はいとも簡単に吹っ飛ばされた。
「あっ。」
斧が飛ばされ、咄嗟に状況を飲み込めないまま混乱する空の顔を、男が殴る。
「うぐっ……。」
空はその場に倒れ込んだ。陸がすかさず矢をうちこむが、空による妨害がなくなり動きやすくなった男には、そう簡単には当たってくれない。
空は必死に、もう一方の手で傷口を抑えて止血をした。銃弾は貫通しており、止まりそうにない……体がどこからともなく温かくなって、ドクドクという心臓の音が、耳元でうるさかった。
なんとか少しだけ起き上がって、斧を取りに行こうと、原っぱを這いつくばる……男が追ってくる様子もない、恐らく斧を奪われることはない。斧さえあれば、まだ、戦える。
そんな期待は、手が斧に近づく度に、膨れ上がっていった。しかし、あと十数センチ……そんなところで、その期待は、プツッと音を立てて、切れた。
先程まで戦っていた男が、空より先に、その斧を拾ったのだ。いや、おかしい、追い抜かされたら、視界の端にでも足が見えるはずだが……男は前からスッと現れた。目の前の男は、先程まで戦っていた男じゃない。
「遅くなってごめんよ、アニキ!」
頭上からそんな声が聞こえた。双子の、弟だ。
考えなくても、この状況がどれだけまずいのか、空には簡単に理解できてしまった。それでも怯まず、陸は兄の方に矢をうち続ける。
「……謝罪はいらない。あの木の上にいる、弓矢の金髪のガキを殺せ。」
「アニキがバーンってやったら1発でしょうに!」
「あと1弾で弾切れするんだ。念の為残しておきたい。」
「はいはーい。」
さすがに怖くなったのか。陸は弓を構えるのをやめて、弟の動きを観察し始めた。拳銃を構えたらだ、どちらに逃げるか判断するのは、それからでいい。
しかし、弟は、陸の考えた通りには動かなかった。空の斧を、陸に向かって投げたのだ。
陸の頭は、瞬時に、パンクした。無理もないだろう、彼は元々賢く、判断が早いような人間ではない。彼ができる抵抗と言えば……頭をかち割る勢いで飛んでくる斧を見て、少し左に避けるくらいしか、なかった。
斧は綺麗な弧を描き、陸の右腕を切り落とした。
「……うああああっっっッッ………ああああああああああ!!」
酷く掠れた悲鳴が、その場に響いた。翔空は顔を上げ、空は耳に入ってきた、陸のものとは思えないような悲鳴から察せる状況を理解して、動けなくなる。
やがて木の根元に、ぼとっと、右腕が落ちた。断面から溢れる血が、秋の冷たい土に、静かに染み込む。
直後、気を失った陸が枝から地面に落ちて、るいが叫び声を上げるまで……数秒も、かからなかった。
続く