テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「あ、はい! 今すぐ持ってきます!」
私は凌先輩に言われるまま、部室の冷蔵庫へ走った。
憧れの先輩に頼られた。ただそれだけのことが、今の私には飛び上がるほど嬉しい。キンキンに冷えたスポーツドリンクを二本抱えてコートに戻ると、ちょうど二人がラケットを置いたところだった。
「はい、凌先輩! それと……遥も」
先に凌先輩に渡すと、先輩は「ありがとう、助かるよ」と言って、私の頭をポンと撫でた。
その大きな手のひらの感触に、顔がカッと熱くなる。心臓がうるさすぎて、倒れてしまいそうだ。
「……っ、いらねーよ。自分で行く」
遥は差し出したボトルを受け取らず、乱暴にタオルで顔を拭った。土にまみれた膝が少し震えている。
「遥、そんなこと言わないで。先輩が心配して……」
「心配なんてされてねーよ。……お前も、いつまでそうやって『良い妹』やってんだよ」
遥の冷たい声が突き刺さる。せっかく凌先輩と良い雰囲気だったのに、どうして遥はいつもこうやって水を差すんだろう。
「あ、そうだ、紗南ちゃん」
凌先輩が、思い出したように私の顔を覗き込んだ。
「明日、もし時間があったら、駅前のスポーツショップまで付き合ってくれないかな? 新しいラケットを選びたいんだけど、君の意見も聞きたくて。……もちろん、お礼に美味しいパンケーキでも奢るよ」
——デート。
私の頭の中に、その二文字が大きく浮かんで弾けた。先輩と二人きりで、買い物をして、パンケーキ。ずっと夢見ていたシチュエーションだ。
「はいっ! もちろんです! 喜んで!」
私が舞い上がって返事をすると、隣にいた遥が、持っていたタオルを地面に叩きつけた。
「……ふざけんな。明日、紗南は俺と自主練する予定だろ!」
「えっ? そんな約束……」
言いかけた私の言葉は、遥の形相に飲み込まれた。
彼は凌先輩を、そして私を、今にも泣き出しそうなほど激しい目で見つめていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!