それからなんと1週間が経った。翌日、そして其の翌日は、「放っときゃ明日には帰ってくンだろ」と無理やり納得して残りの仕事を処理していたが、3、4日経った頃から本格的に焦り始め、蟹料理ばかり作るなど意味の無い亊を始めていた。タチが悪い亊に、本人には蟹料理ばかり作っている自覚が無いのであるから、重症である。
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「…失礼します」
けほ、と咳混じりに這入ってきたのは、中原の部下である芥川だ。食卓には1人分とは思えない量の豪華な蟹料理が並んでいる。…が、中原の顔は重々しい雰囲気を纏っていた。余りにも死にそうな彼に固まった芥川だったが、次の瞬間には無言で椅子に座っていた。一瞬で察してしまうあたり、ポートマフィア構成員がどれほど癖が強いのか判る(もちろん芥川も問題児の1人である)。
何方も進んで話そうとはせず、カチャカチャと食器がぶつかり合う音だけ響いていた。
「…….中也さん」 突然、茶を啜っていた芥川が、何かを決心したように口を開いた。
「 ” 幸福の便りというものは、待っている時には決して来ないものだ。” 」
ぽつりと呟いて、芥川は再び目を伏せる。声色は静かだったが、透き通っていて真っ直ぐで、何処か強さを感じる声だった。
嗚呼、少し前まで心無き狗・ポートマフィアの禍狗と呼ばれた俺の部下は、人を慰められる”やさしいひと”に成ったのかと、しみじみ思う。暫くの間、まばたきをする度に揺れる芥川の睫毛を眺めていた中也だったが、数刻後には何か吹っ切れたようにフッと笑っていた。
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「あンがとよ、手前のおかげで吹っ切れた」帽子を被りながら、中原は云う。
「いえ……では、僕は任務ですので」
芥川はくるりと背を向けた。尊敬する師からの贈り物であり、羅生門を宿す自分の武器でもある黒い外套が、芥川の気持ちに呼応してふわりと揺れた。
彼らの足取りは、いつもより幾分か軽やかだった。
to be continued
コメント
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あ、芥川ぁ〜😭お前良い奴だなぁぁ😭😭😭知ってはいたけどよぉ😭😭