翌日、人混みの中から太宰を捜す為、中原は横濱の上空に居た。
ここまで捜して見付からないのだから、向こうが避けているに決まっている。荷物が無くなっていたのなら帰ってくる心算も無いだろうし、確実に振られたのだから潔く諦めろよ、と、頭の中に過ぎる嫌な囁きを、首を振って掻き消す。厚い雲が空を覆っていて、今にも雨が降り出しそうな雰囲気に、時が過ぎれば過ぎるほど、中原の気分は重くなっていった。
ふと、視界の隅に砂色のコートがはためいた気がして、中原は動きを止めた。隕石の如く速さで地面へ降り立ったが、既に太宰の姿は見当たらなかった。
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「えぇっ、一寸待って下さい太宰さん!また国木田さんに怒られちゃいますよ!?」
何処からか、太宰を呼ぶ声がして、中原は振り返る。尻尾の様に揺れる、片方だけが不自然に長いベルト_敦だ。そのベルトを徐ろに掴んでは低重力化し、鮪の一本釣りのような要領で此方に引っ張った。敦が「ぎゃぁっ!!??」と悲鳴をあげる。虎の反射神経で着地した敦は敵襲かと思って此方を睨んだが、(いや、敵襲だが。)中原だと分かると、「なぁんだ中也さんか〜…!もう、吃驚させないで下さいよ」と、ほっと胸を撫で下ろしたようだった。
「…敵幹部に ”なんだお前か〜” ってエグくねェか…」
「えっ、あっ!そんな心算じゃ…!…え、えーと、それで。如何しましたか?」
敦は明らかに目と話を逸らした。しかしそちらの方が都合が善いので、中原はそのまま話を続ける。
「手前さっき ”太宰さん” つったよな。太宰が今何処に居るか判るか」
「あー…済みません、電話していただけなので詳しい居場所は…」
なんとも思い通りにならない状況に肩を落とした中原だったが、敦は「あっ、でも!」と続ける。
「電話の向こうで、波の音が聞こえたんです。若しかしたら海岸に居るのかも…?まぁ、僕の聞き間違いって可能s…って、あれっ中也さん!?」
敦の話を最後まで聞かず、中原は飛び出した。最早その情報が正しいのかどうかは彼に関係ない。兎に角、次の何かに期待しないとやって行けなかった。
敦は、「もう…2人とも僕の話を最後まで聞かないんですから…」と文句を垂れる。しかし内心では、中原を応援していた。敦は知っているのだ、1週間前_詳しくは、6月20日_からずっと、太宰が中原の元へ帰っていない亊を。
「…風邪を引いていたので休み、って亊にしておいてあげます」
敦は長いベルトを尻尾のように揺らしながら、探偵社に向けて歩き出した。
to be continued
コメント
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新双黒が優しすぎる…頑張ってくれ中也…なんか泣き出したい気持ちになりました( ;ᯅ; )最高ですぅ…
中也良かったね🎵茶漬けでいいってよ⠒̫⃝