「美輝ちゃん…いる?」
玄関で靴を脱ぎ、なるべく美輝ちゃんに聞こえるような声の大きさで言った。
「…いるよ」
そう聞こえ、私がリビングに行った時、むすっと拗ねているような顔をしてリビングに座る美輝ちゃんの姿がそこにあった。
「えっと…どうしたの?」
私が内心驚きつつ、焦りがバレぬよう奇縁ちゃんに笑顔で聞いた。
「だって…だってだってえぇ…!」
すると美輝ちゃんは、急に涙を流しながら思いを打ち明けた。
「さいきんずっと、きふちちゃんといっしょにいれてないんだもん…!わたし、きふちちゃんともっといっしょにいれるって、そうおもってたのにいぃ…」
涙をポロポロと流し、そう言う美輝ちゃん。私は、悪いことしたな、と思うと同時に、美輝ちゃんが確かに私を愛してくれているという事実に、多少の喜びを感じざるを得なかった。
「そっか…ごめんね?美輝ちゃん」
私はそう言って、ポロポロと涙を流す美輝ちゃんを、抱きしめた。
「私ね?美輝ちゃんのこと、大好き、愛してるの。そのためにもお金を稼ぎたいんだ。美輝ちゃんにプレゼント渡したり、将来結婚したりするために、お金が必要だからさ?」
私がそう言うと美輝ちゃんは、鼻を啜りながら寂しそうに言った。
「……わかったよおぉー…。でも、たまにはわたしとあそんでほしい……いいかな?」
「!勿論いいよ!!」
抱きしめられながら上目遣いで美輝ちゃんが私にそう言ってきた。私は可愛さと喜びのあまり、少々大きな声を出してしまった。
「おーい、魚料理ですよー」
玄関が開き、お姉さんが入ってきた。
「今回が初めてだけど、鮭焼いたんだよねー。あ、そうそう。味濃すぎたら水飲んでね」
そう言って水の入ったペットボトルを、焼いた鮭が乗っている皿と一緒に渡してきた。
「あ、そうそう奇縁ちゃん。食べる前に話があるんだけど」
そう言ってお姉さんは、元々お姉さんが使っていた部屋へと私の手を繋ぎ、連れていった。
「今日あいつ殺したでしょ?あいつのスマホ、部屋に残ってたんだけどさ、着信来てたんだよね…」
小声で言いづらそうに、眉を垂らしてお姉さんは言った。
「…相手誰か分かる?」
私が真剣に、殺意を持ってそう聞くと、お姉さんは緊張した様子で言った。
「なんか…メッセージから通話かかってきてたっぽいんだけどね…名前に美香って書いてあって、その後にかっこをつけて、妹、って書いてあったんだよね…。正直ダサいしおかしいけど、友達とかに見られても分かるようにとかだよね、多分…」
「…そんなことはどうでもいいんだけど」
私がそう言うとお姉さんは、ごめん、と言って私に質問を投げかけた。
「…で、あいつの妹は殺すの?まあ、死んでること知らないなら別にいいと思うけど…」
「殺す」
私はぶつぶつと何かを言っているお姉さんに対して、はっきりと言った。
「悠真が死んでることを知ってる知らないの問題じゃないの。悠真のスマホが残ってて通話に出ないなんておかしいと思うでしょ。バレるのも時間の問題。誰かに通報でもされたらたまったもんじゃない」
そう言って説明すると、お姉さんは言った。
「じゃあ、海に誘い出して、その後私が今使ってる部屋で殺して、また海に沈めるってのはどう?」
お姉さんが早速作戦を考えてくれたようだ。考えを私に言って、答えを待っている。
「うん。いいと思うよ。悠真の妹を殺すなら、睡眠薬飲ませよっか。私がお姉さんを殺そうとした時みたいに、マシュマロココアに睡眠薬入れてさ?」
そう言うとお姉さんは渋い顔をして言った。
「…悪魔」
その後に食べた鮭は、なんだか私にはしょっぱすぎて、水を沢山飲んですぐお腹がいっぱいになってしまった。
「あんのクソ兄貴が…」
私は一人でぶつぶつと呟いた。
遥輝センパイの頼み事なら喜んで聞くのが私だ。
昔からぶりっ子や、性格が悪い、男子の前ではサバサバ系出してる、などと女子に陰口を言われたものだ。
でも、好きな人に可愛く見て欲しいのは普通だろう。その好きな人の頼み事なら、喜んで聞く。好きな人の笑顔を、喜ぶ顔を見たいのだ。例え、好きな人が他の誰かを好きでも、絶対に結ばれない恋だとしても、私は、好きな人が笑顔に、幸せになってくれれば、それでいいのだ。
「遥輝センパイ…」
私はセンパイの名前を独り言で呼び、スマホを持ったまま机に突っ伏した。
スマホの画面には遥輝センパイのメッセージアプリのプロフが映し出されている。アイコンや背景などだ。
私はいつも兄である悠真が嫌いだった。
親は悠真に甘く、遥輝センパイと仲がいいのも癪だった。クズでよく私のことをからかって遊んでいたくせに、友達が多くて変なやつだった。まあ、彼女がいた、だとかは聞いたことがないけれど。
あいつはいつだって思春期でロリコンだし、本当に気持ちが悪いやつなのに、なんで友達が多いのだろうか。
「……」
私はスマホの画面を眺めたまま考えた。
私は、本当にあいつが嫌いなんだろうか。
クソ兄貴だとか、変で気持ちが悪いだとか、最低な言葉を並べて、嫌いだとか、癪だとか…。
そういった言葉を並べてはいるが、本当に嫌いだったのだろうか。
速攻でそんなことを考えるあたり、私はチョロいのかもしれない。よくよく考えれば、あいつもそんなことを指摘していたような気がする。
からかわれて遊ばれた、とは言ったものの、私もあいつも、あの時間を楽しく思っていた。
なら嫌いじゃないんじゃないか?
いや、でもそんなはずがないと思いたい。
私はっ___________……。
机に突っ伏し、スマホの画面はいつの間にか消えて真っ暗になっていた。
「はるきせんぱいぃ…」
私はセンパイの名前を呼んで、ずっと悩み続けた。
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