乱歩の視点:
閉ざされた空間の中で、乱歩は冷たい石床に横たわりながらも、必死に心を落ち着けようとしていた。手首に食い込んだ冷たい鉄の手枷が痛むが、それすらも感じなくなるほど、彼の心は無駄に暴れないように抑えられていた。
「――ポオ君。」
その名を口にしただけで、胸に痛みが走る。彼の顔が、目の前に浮かぶ。あの冷徹な瞳、そして、どこか儚げなその表情。ポオが必死で守ろうとしてくれる姿が、乱歩の心に残っている。だが、今の自分にできることは何もない。彼が来てくれることを、ひたすらに願うばかりだった。
だが、何もかもが遅すぎると感じていた。
「ポオ君……」
その名をもう一度呟くと、突然、冷たい声が背後から響いた。
「君は、まだ気づかないのか?」
乱歩はその声に振り向く。顔の見えない男が、ただ一人、薄暗い角落ちに立っていた。その手には、乱歩を捉えている手錠の鍵が握られている。
「気づかない? ――君がポオとどれほどの関係を築こうと、君は結局、彼を裏切ることになる。」
乱歩はその言葉に一瞬、何も感じないふりをしようとしたが、心の奥底で何かが引っかかる。
「裏切る……?」
「そうだ。君が何をしても、ポオを救うことはできない。君は……ただ、試されているだけだ。」
その男の言葉は、乱歩の心に重く響いた。それと同時に、恐怖がじわじわと広がる。
「試される……?」
男は、ただ無表情にうなずいた。
「そう。君がこれまで歩んできた道――すべてが試練だった。君がどれだけポオに依存し、どれだけ彼を信じても、最後には……」
男はわずかに息を呑み、少し笑った。
「君もまた、利用されるだけだ。」
乱歩は冷徹にその言葉を聞き流し、無理に笑顔を作った。
「利用されるだと? 笑わせるな。お前が俺を試すっていうのなら、俺はすでにお前の手のひらで踊っているわけじゃない。」
その言葉が男を一瞬、硬直させた。しかし、次の瞬間、男はゆっくりと近づいてきた。
「君の強がりも、すぐに通じなくなるよ。」
乱歩は黙ってその言葉を受け入れた。
――ポオ、君が来てくれるまで、何とか耐えるしかないんだ。
ポオの視点:
ポオは、薄暗い地下の通路を一人で歩いていた。すべてが静まり返り、暗闇だけが迫ってくる。異能の力が彼の手のひらにまとわりつき、かすかな震えが全身を駆け巡る。
「乱歩……」
声を漏らし、彼は足を止めた。心の中で乱歩を呼び続けながら、必死に足を前に進めていた。しかし、足元から広がる黒い霧が足を取らせる。ポオの力を封じ込めようとするように、霧は彼を引き寄せる。
「……」
だが、彼はそんなものには屈しない。異能を完全に解放し、霧を引き裂いて進んだ。
「お前ら、俺が必ず……!」
その先に待っていたのは、一つの扉。その向こう側には、乱歩がいると信じていた。
ポオは扉を叩きつけるように開けた。その先には、見覚えのある冷たい石壁と、手錠で繋がれた乱歩が横たわっていた。
「乱歩!」
ポオの声が響き渡る。しかし、乱歩は動かない。彼の身体は痛々しく、血で染まっていた。ポオは一瞬、何もできない自分に嫌気がさすが、すぐに乱歩に駆け寄り、手首の手錠を外そうと試みる。
だが、その瞬間、冷徹な声が背後から響いた。
「まだ遅い。」
ポオは振り向く。その先に立っていたのは、あの男だった。
「君がどんなに力を使おうと、無駄だ。乱歩はもう、君を試すために置かれた駒に過ぎない。」
ポオの目が鋭く光った。
「黙れ。俺は乱歩を絶対に手放さない。」
その言葉と共に、ポオは異能を解放しようとする。しかし、その瞬間、乱歩の目がわずかに開いた。彼の声がかすかに聞こえた。
「ポオ……」
ポオはその声を聞き、すぐに乱歩に寄り添った。だが、乱歩の目には恐怖が浮かんでいた。
「ポオ……君は、僕を……」
「そんなこと、言うな。」
ポオは乱歩をしっかりと抱きしめ、冷徹な視線で男を睨みつけた。
「僕を助けてくれるんだろう?」
その言葉が、ポオの心に突き刺さった。
「……俺は、君を救う。」
ポオは乱歩を守り抜くことを誓った。
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