テラーノベル
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この国の吉兆を占う新年の儀式は、年末からすでに始まっている。巫女が三日三晩踊り続け、無我の境地になったところで神をその体に降ろし、予言を聞くためだ。
そして今日はその予言の日だ。巫女はもう、自分が何をしているかわからない。ただ、体が覚えているままに踊り続けている。見ている側は、巫女の踊りに微妙な変化が消え、単調になって来ることで、無我の境地に入ったことを知る。
そうすると偉大なる神官長が巫女を通して神に語りかける。
「大いなる神よ、天空より地上を見渡す眼、時の流れのその先を知る者よ、この国に起こること、嬉しきことも、悲しきことも、余さず語りたまえ!」
「うっ……、あっ……あっ……生まれる……」
「生まれる?」
「今年……ゾットビアの地に……新しい王が生まれる……そして……殺戮……戦乱が始まる……ああっ」
「誰か、倒れた巫女を連れていって、たっぷりと休ませてやりなさい。……しかし、これは何という禍々しい予言か」
「神官長、この予言はいったいどう解釈したらよいのでしょうか?」
「ふむ、新しい王が生まれる、というのは、そのままの意味なら王にお世継ぎが生まれるということだろう。しかし、殺戮、戦乱とは……。もしや、お世継ぎは双子で生まれてくるとか、同時に複数の姫君が身ごもられるとか、そのようなことが起きるのやもしれぬ。いずれにせよ、我らは予言を正確に王に伝えねばならぬ。それがどんなに不吉なものであってもだ」
「それが我ら神官の使命なのですね。では、すぐに王宮に向かわれますか?」
「うむ、仕度は出来ているか?」
「はい!」
「よし、ゆくぞ」
王の間
「……というわけでございます」
「ふむ。宰相、今子どもを授かったという報告はあるか?」
「いえ、いまのところは……」
「そうか。これが世継ぎの誕生を知らせるものであれば嬉しいが、……しかし、殺戮と戦乱か。それは出来れば避けたいものだ。神官長、何か考えはないか」
「はっ、……しかし、我らは神に仕えるのが仕事、神の言葉を違える考えというのは……」
「そうか、それは王の仕事だな。無理を言った。ご苦労だった、下がってよい」
「はっ」
神官長が下がった後、宰相が王に語りかける。
「王よ、いずれにせよ、事が起こってみないことには、何をどうしてよいか……」
「ふうむ、今は待つしかないか」
半年後
「宰相、例の予言だが、あれ以来懐妊の報告はないのか?」
「はい、今のところは……」
「おかしい。どう考えても、このままでは年内に間に合わない。『今年新しい王が生まれる』のではないのか!」
「王よ、もしかしたら、解釈が違ったのかもしれません」
「なに?」
「つまり、新しい王というのは、王のお世継ぎということではなく、……その、王を脅かし、打ち倒す存在、そういう意味での『新しい王』だったのではないかと……」
「なんだと!? ……だが、あり得る話だ。殺戮と戦乱のつじつまもあう」
「そうであるならば、王よ、一刻も早く対策を打たなければなりません」
「対策? 宰相よ、どうしろというのだ」
「……今年生まれたすべての赤子を殺すのです」
「何? 何を言っている?」
「王の立場を狙うものが生まれたら、この世に戦乱が起きてしまいます。そうなる前に、戦乱の芽を摘み取ってしまうのです」
「だからといって殺すのか、何千もの赤子を」
「王よ、戦乱が起きれば、その何倍もの赤子が死ぬのです。……それに、新しい王が死ねば、今の王の地位は安泰ですぞ」
「ううむ…………。しかし、どうやって実行する? さすがに、民たちもはいそうですかといって赤子を差し出したりはしないだろう」
「それについては案があります。まず、12月の最後の週に、今年1年のうちに生まれた赤子を祝福し、金貨1枚を与える、というお触れを出すのです。これをゾットビアの各地でやりましょう」
「そこにやってきた子どもたちをやるわけか。ふむ」
「さらに、この仕事は黒騎士団にやらせるのです」
「黒騎士団はもともと汚れ仕事専用の騎士団、まあ適任だろう」
「いえ、それだけではございません。最後に……今回の一件は、王の御厚意を利用した黒騎士団たちの反逆行為である、として、黒騎士団討伐隊を差し向けるのです」
「なんと!」
「こうすれば、赤子虐殺の責めは黒騎士団が受け持つことになり、王の名声はますます高まることでしょう」
「なんとお主は頭のまわる男よの。よし、それでいこう。さっそく手筈を整えよ!」
「はっ!」
計画は実行され、その出来事は後に「ゾットビアの幼児虐殺」と呼ばれるようになる。そしてこの出来事が、「大地の怒り」を招いたのだと、後年の人々は噂するようになる。(「大地の怒り」に続く)
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コメント
1件
この話、すごく重かった……。予言の解釈ひとつで、何千人もの赤ちゃんが犠牲になる計画が動き出すのが本当に怖い。王と宰相の「正しさ」がねじれて、巨大な悲劇になる過程が丁寧に描かれてて、読んでて息が詰まったよ。特に黒騎士団にまで責任をなすりつけるところ、人間のずるさがリアルでゾッとした。最後の「大地の怒り」って伏線も気になる…続きも読ませてほしいです🌙