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🌸第8話 思い出の輪郭
最近のひよりは、陽と話すときだけ少し表情が柔らかくなるようになっていた。
講義のあと、陽が声をかける。
「小鳥遊さん、今日も演劇部?」
「うん。今日は発声練習だけ」
「発声練習って、どんなの?」
「……あのね、“あえいうえおあお”って言うの」
「え、それ俺もできるかな」
「ふふ……やってみて」
陽が真剣に発声しようとして、
途中で噛んでしまった。
「あえい……う、え……お……あ……お……?」
「……ふふっ」
ひよりが、声を出して笑った。
その笑い方が、
陽の胸の奥を一瞬で掴んだ。
(……今の)
夕方の校庭で、
砂場でうさぎを作って笑っていた女の子。
(ひよりちゃん……?)
記憶の輪郭が、
ひよりの笑顔と重なった。
🌙ひより視点(自分でも気づかない変化)
(……笑っちゃった)
ひよりは自分の口元に触れた。
(はるくんの前だと……なんでこんなに笑えるんだろ)
昔の自分が、
少しだけ戻ってきたような気がした。
(でも……気づかれたくない)
(気づかれたら……どうしたらいいの)
胸がざわつく。
でも、嫌じゃない。
🌸陽視点(確信に近づく揺れ)
(小鳥遊ひより……)
(名前も苗字も同じで、笑い方まで似てるなんて……)
陽は歩きながら、
さっきのひよりの笑顔を何度も思い返していた。
(でも……昔のひよりちゃんは、もっと明るかったし……)
(今の小鳥遊さんは静かで……別人みたいで……)
頭では否定しようとするのに、
胸の奥は“同じだ”と訴えてくる。
(……もし、本当に同じ子だったら)
陽は思わず立ち止まった。
(なんで……こんなに変わったんだろ)
その疑問が、
陽の中で静かに膨らんでいった。
🌙図書館での小さな出来事
その日の夕方。
陽が図書館でレポートを書いていると、
ひよりがそっと近づいてきた。
「春川くん……これ、落としてたよ」
ひよりが差し出したのは、
陽のノート。
「あ、ありがとう!助かった」
「……ううん」
ひよりは少し照れたように微笑んだ。
その笑顔は、
陽の記憶の中の“ひよりちゃん”とほとんど同じだった。
(……やっぱり)
陽は胸が熱くなった。
(小鳥遊ひより……君は……)
言葉にならない確信が、
陽の中でゆっくり形になり始めていた。