テラーノベル
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「だから!私は疲れていませんと言っているでしょう!」「いいや、どう見たって疲れてるね。認めなよブリカス」
会議室に、普段の数倍のボリュームで怒号が響き渡る。
イギリスはシルクハットを直す余裕すらないのか、モノクルの奥の蒼い瞳を限界まで吊り上げてフランスを睨みつけていた。対するフランスは、ベレー帽を斜めに被ったまま、普段通りの飄々とした態度を崩さない。
しかし、その言葉のトゲはいつもより鋭かった。
「おいおい、そこらでやめようぜ……。親父もフランスも、顔がマジだって」
「……」
「まぁまぁ、二人ともなかよぉうなぁ? そんなに声を張り上げたら、喉痛めてまうで?」
アメリカが苦笑いしながら二人の間に割って入り、後ろではソ連がウシャンカの影から静かに戦況を見つめている。国連は丸眼鏡を押し上げ、天使の輪っかの布を揺らしながら困ったように首を振るが、今日のイギリスにはその制止も届かない。
ことの発端は、数十分前。
フランスが「やぁ!ブリカスこれやって!」と、一枚の画面をイギリスに突きつけたのが始まりだった。
スマートフォンの画面に映っていたのは、テンポの速い音ゲー。ノーツが降ってきて、タイミングよくタップするタイプのゲームだ。
「めんどく――」
「まぁまぁ!!」
イギリスの拒絶を遮り、フランスは強引に端末を押し付けた。
イギリスは盛大にため息をつきつつも、生真面目な性分が祟って画面に指を走らせたのだが……結果は散々なものだった。普段の彼なら確実にパーフェクトを取れるような難易度。それなのに、明らかに指の反応が遅れていた。
画面に表示されたリザルトを見て、フランスは確信を込めて言ったのだ。
「うん、疲れてるね。タップが遅かった」
それが、イギリスの逆鱗に触れた。
図星を突かれたからではない。仕事中毒で自己犠牲的な彼は、自分の「疲れ」を認めることが、そのまま自分の弱さや無能さに繋がる気がして許せなかったのだ。
「ただの押しミスです! もう一度やれば完璧に――」
「いや、目の焦点が合ってない。そんなんじゃ指示のキレも鈍るよ。大人しく休みな」
「あなたに言われる筋合いはありません! この、フラカス……!!」
いつもなら「なんだと?」と言い返すはずのフランスは、ふっと息を漏らし、信じられないほど冷ややかな目でイギリスを見下ろした。
「なんとでも言いなよ。ボロボロの君に何言われても、ちっとも響かないからさ」
「冷静」という名の冷水を浴びせられ、イギリスの言葉が詰まる。普段の左利きの手が、怒りと気まずさで小さく震えていた。これ以上ここにいたら、自分がさらに惨めに思えてくる。
「ッ……知りません!」
イギリスは踵を返し、大きな音を立てて会議室のドアを開けた。そのまま、振り返ることもなく廊下へと出ていってしまう。バタン、と重い扉が閉まる音が室内に虚しく響いた。
静まり返った部屋の中で、フランスは小さく頭を抱えた。
「はぁ、、、」
深いため息が、彼の口から漏れる。
斜めに被ったベレー帽の隙間から、隠された右の赤い瞳が、ほんの一瞬だけ寂しげに揺れたような気がした。
「フランス、お前も言い方ってモンがあるだろ……」
「わかってるよ、アメリカ。でも、あいつはああでもしないと絶対に休まないからさ」
そう、フランスは知っていたのだ。昔からずっと一緒にいるからこそ。
あの頑固なイギリスが、どれほど限界まで自分を追い詰めて、今にも倒れそうな状態であるかを。
コメント
1件
あっ、これ…ちょっとグッときました。 イギリスの「疲れてない!」って拒絶、強がってるのが痛いくらい伝わってきて。でもフランスの「なんとでも言いなよ」の冷めた口調の裏に、ちゃんと心配があるのわかるから余計に切ない…。 最後のため息と、隠した赤い瞳の寂しげな揺れが、めっちゃ刺さりました。 2人の距離感、すごく丁寧に書かれてて好きです。次も読みたい🌙🤍
#フォロワーふえてほしーい!!