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「お断りします」
「シュプゼーレ聖魔法国の条件よりも良いと思ったのだが……」
全く違うわ! 天と地の差がある!
膝の上にいる幻獣猫が「ゔぅ!」とものすごく怒っている。毛を逆立てて今にも噛みつきそうな勢いだ。 大丈夫だよ、と背中を撫でるとゴロゴロし始めた。可愛い。
自分よりも怒った人(猫)を見ると、冷静になるみたいだ。
「私はジルベール様の婚約者ですし、シュプゼーレ聖魔法国の侯爵家の養子となりました。今回の一件について取り調べのために、この国に残って協力をしているのであって、引き留めが目的なら早々に国を出立させていただきます」
私の淡々とした言葉にリベリオ殿下は目を丸くしていた。平民だと侮っていたのだろうか。馬鹿にしないでいただきたい。
「おや。私の容姿はお気に召さなかったかな?」
黒く長い髪に、緑の瞳。ジルベール様とは違うけれど美しい顔立ちだ。しかし考え方は非常に残念な感じである。
「私は容姿や地位で、付き合う人間を選んでいません。ジルベール様とは魔導具という共通点があるからです」
「そうか、そういえばそのような報告もあったな。しかし国益となる者をそう簡単に逃したくない。シュプゼーレ聖魔法国よりも良い条件を出そう。なんなら魔導研究所の職員にしてやってもいい」
「殿下!? あの研究所は貴族だけが入れる特別な職種なのですぞ!?」
四十代のふくよかな男性が声を荒げた。貴族服に身を包み、両手の指にはじゃらじゃらとした指輪をいくつも着けている。なんというか品のないお金持ちの印象が強い。そしてすごく睨んでくる。
「しかしサントス伯爵、元はと言えば君がリーニャ商会の魔導具を見てガラクタ、不良品だと判定していなければ、こんなことにならなかったのだぞ」
「うぐっ……ですが、魔法術式が途中で途切れているのですぞ!?」
魔法術式が途中で切れている?
あ、ああ……なるほど。この世界の魔導具技術はその程度なのね。この国で魔導具技師の頂点という肩書きを持つ人間がこの程度なら、この国の魔導具の発展はこの先、停滞するだろうな。
記事で読んだ通りスザンヌ姉さんの夫は、この国ではなく他国に魔導具を売り出すことを早々に決断したのは英断だったわ。そりゃあ物の価値も分からず不良品なんて言うのなら、作り手だってそんな相手と仕事はしたくない。
「彼らが平民であっても、その技術は素晴らしい物だったし、特に魔導ランプは外灯はもちろん、家の中の明かりを保つに当たって蝋燭や魔法よりも燃費が良い。そして誰でも使い方がわかれば使用できるという。これは国をよりよくする物だと分からない訳でもなかろう」
「ですが……所詮は平民。我々の崇高な技術を」
「不良品と仰いましたが、もしかして魔法術式のロック解除方法を知らないのですか?」
「「は??」」
どうやら魔法術式について何も知らないようだ。リベリオ殿下と伯爵は同時に間抜けな声を上げた。
「名誉ある魔法術式に鍵をかけるなど、貴族の崇高なる高みを知らぬおろか」
「ロックをかけなければ、魔力持ちなら魔法術式の閲覧可能じゃないですか」
私の言葉に伯爵は黙った。
「魔力を持った人間全員か」
「はい。クライフェルゼ王国では魔力持ちが少ないですが、見るだけなら微量の魔力持ちでも可能です。しかしその場合、技術を盗まれる可能性があるので、技術を守るために魔法術式にはロック──要は魔法術式に鍵をかけることで不用意に中身を見られないようにしています。このロック解除方法に気付くかどうかで魔導具技師の腕が分かります」
「──っ!?」
「というと?」
「まず魔導具が使えている状態なのに、『魔法術式が途中で途切れている』あるいは『途中から魔法術式が読み取れない』となれば、大抵はそれでも発動していることに違和感を覚えます。そして魔法術式を展開した際に、解析あるいは術式そのものを読み解けば別の魔法術式による鍵が掛かっていると分かるのです。というか分からないとお話になりません。殿下や伯爵も大事な宝物庫には鍵を掛けるでしょう? 理論的にはそれと同じです」
ああ、でもこの技術は私が開発したわけではないので、その辺りはしっかり言っておこう。
「これからを考えたのは私ではなく、リーニャ商会のジェレミアさんです。私はそのジェレミアさんの魔導具を幼い頃から見て、弄って研究していたので、私なんかよりも発想や考え方、日常生活用の魔導具に対する情熱は彼がすごいでしょう。私を囲うよりもジェレミアさんを重宝すべきかと思います」
「ジェレミア? そうか、君ではなくその男が……」
よし! 王太子の興味がジェレミアさんに向いた!
「はい。私はその方の作った物から着想を得ました。今、リーニャ商会は私の一件で批難を受けて、大変なことになっています。しかしそこで王太子であられるリベリオ殿下が『彼は関わっていなかった、スザンヌ一人による強行だった』とすれば、彼に恩を売れますし、彼は自分の好きな魔導具技師の仕事が出来ます。ジェレミアさんは恩人であるリベリオ殿下に忠誠を誓い、国の発展のために貢献するのではないでしょうか? 私がジルベール様の力になりたいというように」
「なるほど……」
殿下の興味は完全に私からジェレミアさんに移ったようだ。その横にいる伯爵は顔が真っ青から土色に変わっていく。ジェレミアさんを否定してガラクタと言ったのだから、そんな顔にもなるわよね。
「なるほど。確かに強制で働かせるよりも恩を売るほうが、将来的にはメリットが大きい。ロゼッタ嬢、君の考え方は合理かつ誰も不幸にならない。素晴らしい考え方だ」
確実に隣にいる伯爵は不幸になる話ですが、まあそれは身から出た錆なのでしょうがないですよね。
「はい。今後、王侯貴族だけではなく平民も魔導具を使うようになれば、生活水準も上がりますし、より素晴らしい国になるのではないでしょうか」
「はははっ、参った。君を囲うことに労力と時間をかけるよりも、そちらのほうが建設的だな。すぐにリーニャ商会のジェレミアとその両親を呼べ。いいか客人対応でだ」
「ハッ!」
思ったよりも行動が早い。それに決断力もあるようだ。うーん、もしかして敢えて侮られるような感じで話していた?
腹黒い。王族怖い。
「では私の妹は、準備が整い次第シュプゼーレ聖魔法国に向かいがますが問題ないでしょうか?」
グッジョブ、ミレイア姉様!
このタイミングで聞けるってすごいわ。
「ああ、そうだ。ジルベール殿から聞いているかもしれないが、君の姉スザンヌは奴隷紋の不正使用を行ったことで極刑も考えたが、彼女は腐っても魔導具技師らしいので、賠償金を支払うまでは王家の離宮で働いて貰う。次に両親は現在の土地と事業を全て差し押さえ、鉱山作業員として約20年の勤務となる。最後に末の妹は北の最も厳しい修道院に入ってもらった」
「……教えていただきありがとうございます」
『そうですね。向こうが私に会いたい理由が謝罪であれば応じますが、それ以外の言葉でも言うようなら会わないでいいかなと』と以前ジルベール様に話したのだけれど、もしかしなくても謝罪どころか罵詈雑言でも言ったのかな。
「君の婚約者は、あの罪人たちの暴言を聞いて、とても怒っていたらしい。よいパートナーに恵まれたようで何より。……もし婚約破棄をして祖国に戻ってくるのなら、好待遇を約束しよう」
「あははっ、そうならないように頑張ります」
伯爵はその場で魔導具研究所所長の任を下ろされ、その研究員たちも後日、適性テストを行い実力のある者だけを残して一新するという。代々惰性で続けていたらしい魔導具研究所が生まれ変わる話は、あっという間に国中に広まった。
それにより実力があるのなら王城で仕事が出来るかもしれないと、一気に魔導具技師の好感度と人気が爆上がりした。またリベリオ王太子殿下がリーニャ商会を救ったことで美談とされ、ジェレミアさんは私の想定した通り、喜んで国のために貢献すると誓ったらしい。
この国も滞納していた膿が吐き出されて、大きく飛躍するだろう。最後までジェレミアさんとは会わなかったが、それで良いと思う。
両親や姉妹に会えなかったけれど、言いたいことはしっかりと伝えたら未練はない。……まあ、本当の両親かはちょっと聞いてみたかったけど。
シュプゼーレ聖魔法国の道中、山賊や人攫いに遭遇など、ハプニングがありつつもミレイア姉様の強さに感激したり、その領地の子息にプロポーズされて逃げる、新しい魔導具を開発したりと、刺激的な旅になったのはまた別の話。