テラーノベル
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夜の美術館。
警報が鳴る前に、影が屋根から降り立つ。
「っと……」
展示ケースの前。
「今日の獲物は……これでいいか」
宝石を掴んだ瞬間、背後で声。
『動くな』
「……来ると思ってた」
振り向くと、拳銃を構えたローレン。
『怪盗K』
「フルネームで呼ぶなよ」
『お前のせいで今月、残業続きなんだが』
「悪い悪い」
『……本当に悪いと思ってる顔じゃない』
葛葉はマスク越しに笑う。
「なぁ」
『何だ』
「今日も来てくれたな」
『……当たり前だろ、仕事だ』
「それな」
「俺も仕事」
『盗みが仕事ってどうなんだ』
「警察が追ってくれるなら成立する」
『意味がわからん』
葛葉は一歩近づく。
『動くな』
「撃つ?」
『……撃たない』
「だろ」
「優しいよな、ローレン」
『名前で呼ぶな』
「じゃあ警部さん?」
『やめろ』
少しだけ沈黙。
「なぁ」
『……何だ』
「俺さ」
「最初に盗んだの、宝石じゃないんだよ」
『は?』
「お前」
『……意味不明だ』
「警察署の前で」
「居眠りしてた新人警官」
『……それ俺か』
「そう」
「一目惚れ」
『……怪盗の動機がそれか』
「悪い?」
『……悪い』
「じゃあ捕まえろよ」
『……簡単に言うな』
「俺が盗む理由も」
「ここに来る理由も」
「全部お前なんだけど」
『……ふざけるな』
「本気」
ローレンは銃を下ろす。
『……じゃあ』
『……もう盗むな』
「無理」
『何でだ』
「盗まないと」
「お前、会いに来ねぇだろ」
『……』
「怪盗と警察ってさ」
「会う理由、犯罪しかねぇんだよ」
『……最悪な関係だな』
「でも」
「毎回一番に来るの、お前じゃん」
『……それは……』
「嬉しい」
ローレンは視線を逸らす。
『……捕まえないといけない立場なんだ』
「知ってる」
「でも」
「今日は盗んだの、これだけ」
葛葉はポケットから小さな箱を出す。
「宝石じゃなくて」
「チョコ」
『……は?』
「署の自販機で買った」
「差し入れ」
『怪盗が警察に差し入れするな』
「甘いの好きだろ」
『……誰情報だ』
「初めて会った日」
「夜勤明けで糖分足りないって言ってた」
『……よく覚えてるな』
「好きだからな」
『……』
警報が大きく鳴り響く。
『……逃げろ』
「いいの?」
『今捕まえたら』
『……話の続きができない』
葛葉は一瞬目を見開いて、笑う。
「次も来る」
『来るな』
「来る」
「会いに来る」
『……馬鹿』
「警察が好きな怪盗なんて」
「世界で俺だけだろ」
『……誇るな』
葛葉は窓から飛び出す前、振り返る。
「なぁローレン」
『……何だ』
「いつかさ」
「盗まなくても」
「会える関係になろうぜ」
『……捕まえたらな』
「じゃあ捕まえてみろよ」
夜に消える影。
ローレンはチョコを見つめる。
『……本当に』
『……最悪な怪盗だ』
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