テラーノベル
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人通りの多い駅前。
「……あ」
『……っ』
ドン、と肩がぶつかる。
『すみません!』
「……あ、いや、大丈夫……」
帽子とマスクを深くかぶった葛葉。
ローレンは一瞬顔を見るが、すぐに目を逸らす。
『気をつけてくださいね』
「……」
ローレンが立ち去ろうとした瞬間。
「……待って」
『え?』
葛葉の心臓がうるさい。
(やば……本物だ……近い……)
「……ローレン、だよな」
『……え?』
ローレンは目を丸くする。
『なんで……俺の名前……』
「……あー……」
(言えるわけないだろ……)
「……前に」
「ライブのアンケートで見た」
『あ、あぁ……あれですか』
『毎回書いてるんで……』
「……毎回、来てるよな」
『え?』
「……ライブ』
『はい』
『最初の小さい箱の時から……』
「……だよな」
葛葉は帽子のつばを握る。
「……今日も?」
『今日も行きます』
『物販も並びます』
「……そっか」
(可愛い……)
(無自覚で来るな……)
沈黙。
『……あの』
『もしかして……』
「……ん?」
『葛葉くんに』
『似てますよね』
「……っ」
『声も』
「……よく言われる」
『ですよね』
『……似てるだけですよね』
「……似てるだけ、だな」
ローレンは少し笑う。
『でも』
『本人だったら』
『やばいですよね』
「……何が」
『だって』
『俺』
『葛葉くんのこと』
『めちゃくちゃ好きなんで』
「……」
『推しとして、ですけど』
「……知ってる」
『え?』
「……いや」
「……なんでもない」
ローレンはスマホを取り出す。
『今日のライブ』
『最前じゃないですけど』
『いい席なんですよ』
「……楽しみだな」
『はい』
『生で見ると』
『ほんと、眩しくて』
『……同じ人間と思えない』
「……」
(同じ人間だよ)
(お前の前にいるの)
「……なぁ」
『はい』
「……もし」
「推しが」
「目の前にいたら」
「どうする?」
『……泣きます』
「……なんで」
『現実が』
『夢に勝った時って』
『泣くじゃないですか』
葛葉は小さく笑う。
「……そっか」
『……あ』
『すみません』
『引き止めちゃって』
「……いや」
「……また」
『え?』
「……ライブで」
『……はい』
『絶対行きます』
「……うん」
ローレンは手を振って去っていく。
葛葉はその背中を見つめる。
「……ほんと」
「大好き」
――夜、ライブ会場。
ステージの上。
スポットライトの中。
「……今日は」
「ずっと応援してくれてる人に」
「ありがとうを言いたい」
客席がざわつく。
「……ローレン」
ローレンの目が見開く。
『……え』
「……いつも最前で」
「うちわ持ってるだろ」
「ちゃんと、見てる」
ローレンの視界が滲む。
『……知らなかった』
『……認知……されてた……』
葛葉はマイクを握る。
「……ずっと来てくれて」
「ありがとう」
「……会えて」
「嬉しかった」
ローレンは両手で顔を覆う。
『……推しが』
『……現実にいた……』
『……しかも』
『……今日ぶつかった人……』
ステージの上で、葛葉は笑った。
「……また来いよ」
「俺の」
「1番大好きなファン」
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