「嬉しい。まだそんな風に思ってくれるんだ?」
「当たり前でしょ。逆にもっと酷くなってるかもね」
「今、ちゃんと一緒にいれるのに?」
「うん。なんかね。透子好きになればなるほどさ。やっぱ独り占めしたくなっちゃうんだよね」
「してるじゃん」
「それはそうなんだけど。逆にオレのモノだから、誰にも渡したくないっていうか」
「フフッ。どこにも行かないよ?(笑)」
「いや、なんていうかさ。全部自分のモノにしたいっていうか・・」
「もうそうなんじゃない? 私はそのつもりだけど?」
「今透子好きでいてくれるのはもちろんわかってるんだけどさ。オレ的には叶うなら過去の恋愛も全部オレで塗り替えたいくらい」
「そこまで?(笑)」
過去の男に作った料理にまで嫉妬するくらい。
透子にとってはそれもきっとその時は大切な時間や想い出で。
きっと今みたいに当たり前にやっていたことで、透子にしたらオレがここまでこだわる理由も理解出来ないだろうけど。
「うん。透子がそういう気持ちになる相手は全部オレであってほしい。今も過去も全部オレで埋め尽くしたい」
でも、それほどにオレは透子が好き過ぎる。
「もう今は樹好きでいっぱいいっぱい」
「だから過去でツラい恋愛してた記憶は、オレが幸せにしてる記憶に入れ替えたい」
「もうそうなってるよ。樹と今幸せな記憶が大きすぎるから、前のそういう記憶は今は全然思い出さない」
「だから、せめて今の幸せでその記憶を上書きしたい」
「うん。もうしっかり幸せな記憶で全部上書きされてる」
オレとの時間は、全部幸せな時間で記憶してほしい。
オレに愛されてるという幸せで、全部上書きしてほしい。
「まぁ。かと言って、過去に戻って、そのままの過去の自分はただのガキで何の力もなくて、透子幸せに出来るはずなんてないんだけどね」
そう。今だからそんな風に言えるけど。
実際は今のオレじゃないと透子にも幸せだと感じてもらえてはいないだろうから。
「そっか。確かに、その頃はまだ若いままの樹だもんね」
「そう。だから、タイムマシンみたいなのがあれば今のオレのままで幸せにしに行くんだけどさ」
「それなら幸せになれたかもね」
「でしょ?」
「でも、やっぱり嫌、かな」
「えっ?なんで?」
なぜかすぐ否定的な言葉が返ってきて、一瞬焦って聞き返してしまう。
「だって今の樹を私が独り占めしたい」
うぉっ!
まさかそう返って来るとは・・・。
透子の口からそんな言葉聞けるなんて思わなかった。
そんな風に透子も想ってくれてるってことなんだ・・。
「もし樹が今過去の私に出会って、優しくしてくれたり幸せにしようとしたら、多分今の自分がヤキモチ妬くと思う」
「マジで・・?」
「うん。昔の自分が今の樹の魅力どこまで気付くかもわからないし、過去の自分でさえ樹のそんな魅力気付いてほしくないもん。今の私だけで独り占めしてたい」
いや・・予想を超えた言葉が出て来て正直驚いた。
だけど、過去の透子なら、オレはきっと好きになっていたはず。
「その頃からオレが透子好きだったとしても?」
「うん。だって今の自分のが絶対樹を好きな自信あるし。過去の自分にさえ樹のこと渡したくないもん」
「そこまで透子が言ってくれるとかヤバいんだけど」
まさか過去の自分に嫉妬してくれるとか・・・。
そんなのオレにとっては全部好きな透子だし、どんな透子でもオレが好きならそれで十分満足なのに。
「でもそれ言い出したら私の方がキリないよ?」
「なんで?」
「だって私は別に恋愛したの数えるくらいだけどさ。樹は私以上に数えられないくらいの女性と付き合ってたワケでしょ?」
「いや。そんな数えられないほどじゃないけど・・いや、本気じゃなかったから数えたこともないけど・・。ってかアレは全部真剣に恋愛してなかったワケだし」
「でも、遊びや樹が本気じゃなくても、そういう雰囲気になったってことには変わりないワケだし」
「まぁ、それは」
「それにそんなに人数がいたってことは身体だけの関係もあったワケでしょ?」
「いや・・まぁ・・。それは透子と出会う前だったからさ・・」
「だよね。私は気持ちがなくても樹が他の女性とそういう関係になって、そういう人がたくさんいたって考えるだけでホントならおかしくなりそうだけど」
そこまでオレを想ってくれてることが、めちゃくちゃ嬉しかったけど。
だけど、まさか今までの何気ないオレの無意識のそんな行動が、実は透子をそこまで苦しめてるとは正直思わなくて。
オレが透子の過去も記憶も想い出も、全部独り占めしたいのと同じように、透子もそう感じてくれているのかもしれない。
それなら、オレが感じる以上に透子は苦しい想いをしているかもしれない。
「だよな・・。透子傷つけてんのオレだよな・・。過去のオレはまさか将来こんなに大切で愛しい存在が現れるなんて思ってなかったから。そんな相手を傷つけることになるなんて思ってもいなかった。その時はただその場限りの欲望や気分だけでただ流されたいい加減な生き方してただけだったし・・。実際それでいいって思ってた。オレにはそんな生き方しか出来ないんだろうなって。本気になれる相手が現れないなら、こんな生き方するしかないのかなって。なのに、ホントにこんな本気になれる愛しい存在現れるもんなんだね。バカだよなぁ、昔のオレ・・」
あの時は、何かしら寂しい隙間を埋めてくれる相手なら誰でもよかった。
欲望が満たされるなら、正直誰でもよかった。
それに何か意味があるとかそんなのもなくて。
だけど、そんな気持ちのままだと当然その寂しさは一時期埋められるだけで、虚しさはなくならなかった。
身体は満たされても気持ちが満たされたことなんて一度もない。
だけど透子に出会って、初めて心と身体が満たされる幸せは一緒なのだと知った。
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