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kaede🍁
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りゅず
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阿部の頬を涙が伝う。
目黒はその涙を拭かなかった。
今ここで慰めてしまえば、また阿部は「大丈夫」と笑ってしまう気がしたからだ。
静かな部屋の中で、目黒は最近の出来事を思い返していた。
(違う……。)
(週刊誌だけじゃない。)
頭の中で、少しずつ点と点が繋がっていく。
阿部の食欲が落ち始めたのは、もっと前だった。
一緒に食事をしていても、
「今日はあんまりお腹空いてなくて。」
そう笑っていた。
でも違う。
あれも、嘘だった。
目黒はゆっくり息を吐く。
「……あべちゃん。」
静かな声で呼ぶ。
「週刊誌の前からだよね。」
阿部の肩が小さく震えた。
「食欲なくなってたの。」
「俺にはずっと、ごまかしてた。」
阿部は何も答えない。
答えられない。
目黒は記憶をたどる。
(何かあった。)
(週刊誌より前に。)
最近の出来事を一つずつ思い返していく。
仕事。
買い物。
みんなとの時間。
そして――。
ふと、一つの光景が頭に浮かんだ。
(そうだ……。)
(あの日。)
(あべちゃん、一人で俺の映画観てた。)
帰宅した時。
映画は途中で止まっていた。
阿部は「途中で眠くなっちゃって」と笑っていた。
目黒は何も疑わなかった。
けれど今なら分かる。
あの日からだった。
目黒は静かに阿部を見つめる。
胸が苦しかった。
自分はずっと隣にいたはずなのに。
何一つ気付けなかった。
そして、一つの答えにたどり着く。
恐る恐る口を開いた。
「……あべちゃん。」
「俺が。」
少しだけ声が震える。
「俺が他の誰かと結婚した方が幸せだって思った?」
その瞬間。
阿部の時間が止まった。
目が大きく見開かれる。
呼吸が浅くなる。
何か言おうと口を開く。
けれど、声にならない。
その表情だけで十分だった。
目黒は静かに目を閉じる。
「やっぱり。」
小さく呟く。
「そうだったんだね。」
怒りではない。
悲しみだった。
阿部は一人で、そんなことまで考えていた。
自分の幸せを、自分ではなく目黒のために諦めようとしていた。
その事実が、目黒の胸を強く締めつけた。
阿部は震えながら首を横に振ろうとする。
「ちが……。」
けれど、その言葉は最後まで続かなかった。
もう、ごまかせない。
もう、嘘はつけない。
目黒は阿部の目をまっすぐ見つめた。
「今度は。」
「本当のことを聞かせて。」
その一言に、阿部の中で張り詰めていたものが、静かに崩れ始めた。
もう、ごまかせない。
震える声で、少しずつ言葉を紡ぐ。
「映画を観た日……。」
「あの家族を見て。」
「めめは、本当はああいう幸せを手に入れた方がいいんじゃないかって思った。」
一度言葉が止まる。
涙が次々とあふれ、声が震えた。
「俺は籍を入れられるかも分からない。」
「子どもも産めない紛い物の身体。」
「めめは子どもが好きなの知ってる。」
「だから……。」
「俺といるより、普通に結婚して、温かい家庭を作った方が幸せなんじゃないかって……。」
「週刊誌を見た時。」
「『やっぱり』って思っちゃった。」
「めめは何も悪くないのに。」
「信じたいのに。」
「信じきれない自分が嫌で……。」
「でも、こんなこと言ったら、めめを傷つけると思って……。」
そこまで話すと、阿部は俯いた。
「……ごめん。」
その一言だけが、静かな部屋に落ちた。
長い沈黙が流れる。
目黒は何も言わなかった。
ただ、俯いた阿部を見つめていた。
その胸の奥には、言葉にならない感情が渦巻いていた。
悲しみ。
悔しさ。
自分への怒り。
そして、阿部が一人でそこまで思い詰めていたことへの苦しさ。
目黒は阿部を強く抱きしめる。
「……あべちゃん。」
低く押し殺した声だった。
そのまま首筋に牙を立てるように深く噛みついた。
「っ……!」
「痛い…っ、」
「俺、今すごく腹が立ってる。」
阿部の肩が震える。
目黒は阿部の肩を強く抱き寄せた。
そして、阿部の額に短く口づける。
「どうして、一人でそこまで苦んでたんだろうって。」
阿部は涙を流したまま首を振る。
「違う……。」
「違わない。」
目黒はきっぱりと言った。
「俺は。」
「男だった頃のあべちゃんを好きになった。」
「女の子になったから好きになったわけじゃない。」
「子どもが欲しいわけでもない。」
目黒は阿部の両肩に手を添え、まっすぐ目を見つめる。
「俺は、一度だって。」
「二人で生きていくっていう選択を変えたことはない。」
「一度も。」
「それなのに。」
「あべちゃんは、俺の幸せを勝手に決めようとした。」
「俺の人生を、一人で終わらせようとした。」
目黒は阿部の手を握る。
「今日は寝かせない。」
「あべちゃんがちゃんと分かるまで、何度でも伝える。」
「俺があべちゃんのこと心の底から愛してるって。」
「…今から何度でも刻みつけてあげる。」
耳元で囁かれる容赦のない言葉。
目黒の熱い吐息が鼓膜を震わせて、阿部の理性を少しずつ溶かしていく。
「絶対逃がさないよ。」
「あべちゃんが俺の愛を全部受け止めてくれるまで…」
コメント
1件
うわっ……第5話、めちゃくちゃ刺さった……。 阿部ちゃんが一人で「めめの幸せ」を考えて諦めようとしてたの、読んでて胸が締め付けられた。でも目黒が「俺の人生を一人で終わらせようとした」って言い当てたシーン、鳥肌立ったわ。最後の「寝かせない」「刻みつける」って台詞、もう完全に愛の暴力って感じで、むしろそれでいいんだよって思えた。みらさん、この二人の関係性の解像度やばすぎる。続きが待ちきれない🔥