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そのタイミングで部屋のチャイムが鳴った。
思わずドキッとしてドアの方を見る。
もしかして……
あの扉の向こうに……?
自然に高鳴る胸の鼓動を抑えながら、私は急いでドアに近づいた。
「……はい」
「俺だ。遅くなってすまない」
この声……
「は、はい。今すぐに開けます」
震える手でドアに触れる。
ゆっくりと開くドアの前に、常磐さんの姿が、まるでスローモーションがかかったみたいに少しずつ現れた。
あまりにもかっこ良過ぎる登場に、私の心と体は一瞬でガチガチに固まってしまった。
「……入ってもいいか?」
「あっ、は、はい、すみません。どうぞ」
どうしてこんなに動揺しているのか、自分でも不思議で仕方ない。
とにかく……冷静にならないと。私は、何とか呼吸を整えて、常磐さんを中に招き入れた。
「すまなかった。ずっと1人にして」
頭を下げる姿にキュンとする。
強引な人だけど、きちんと謝れる常磐さんに誠実さを感じる。
「とんでもないです。常磐さんのおかげですごく楽しんでます。プールも素敵で、夕食も美味しくて、本当に夢みたいです」
「それなら……良かった」
柔らかくて座り心地の良いソファに腰掛けるよう促され、私達はほんの少し間を空けて隣同士に座った。
スーツ姿の常磐さんから、香水のとても良い匂いがする。男性の色気が漂う香り、ただそれだけでクラクラしてしまいそうになる。
スイートルームの高級な調度品、さりげなく飾られた有名な絵画。そして、常磐さんというこの世のものとは思えない程美しい男性。
その全てがあまりにも現実離れしている。
こんな贅沢で夢のような空間に、やっぱり自分は、「存在してはいけない世界」に迷い込んだのかも知れないと……本気で思った。
まずは、用意されたシャンパンで乾杯した。
2人きりの夜が、グラスが軽くぶつかる音で始まった。
「こんな素敵なホテルに宿泊させてもらえるなんて、本当にありがとうございます」
私は、改めてお礼を言った。
「今朝急にどうしても外せない商談が入って、父に同行することになって……本当に申し訳なかった」
「そんなこと言わないで下さい。常磐さんは、将来常磐グループを背負っていく立場の人なんですから。お父様に同行するのは当然です。わざわざ運転手さんにも来てもらって、私、今日1日をのびのびリラックスして過ごすことができました。こんな最高に素敵な時間を下さって本当に感謝してます。だから、申し訳ないなんて思わないで下さい」
「そう言ってもらえるなら有り難い。でも、本当なら、一緒にプールに入って、一緒にディナーを楽しみたかった」
憂いを帯びた表情が私の心をグッと掴む。